これまでの主な成果
 
8. 上丘局所神経回路(8)サルの上丘マップ上における"remote inhibition"について (Watanabe et al. J. Neurophysiol., 2005)
Watanabe M, Kobayashi Y, Inoue Y, Isa T (2005) Effects of local nicotinic activation of the superior colliculus on saccades in monkeys. Journal of Neurophysiology, 93: 519-534.

眼球のサッケードは視空間の中で注意を引く"salient"な刺激に対して視線を移動させる運動であるが、空間の中で互いに近接する刺激同士はそれらに向けてのサッケードの開始を促進するが、離れた部位同士にある刺激同士は他方へのサッケードの開始を遅らせる"distractor"として作用する。
このような「近接する刺激同士は促進的相互作用、離れた刺激同士は抑制しあう」という"saliency map"の特徴は中枢神経系のどの部位のメカニズムによるのかが問題である。
ひとつの候補は中脳の上丘であるが、上丘マップ上での離れた部位間の抑制"remote inhibition"の有無についてはサルでの電気刺激実験で「存在する」としたMunoz & Istvan (1998)とスライスでの実験で「側方抑制の及ぶ範囲は狭い」としたHallらの研究(Helms et al. 2004)の間で見解の相違が生じている。
そこで本研究では、Aizawa et al. (1999)の手法にならって上丘中間層に局所的にニコチンを注入してその部位の活動を上昇させたときに、その部位から離れた部位が制御するベクトルのサッケードに対する影響を解析した。
その結果、ニコチンの局所注入はその部位が制御するサッケードの反応時間を顕著に短縮させる。またその部位と近い方向へのサッケードの反応時間も短縮させる。またサッケードの軌道も注入部位へのサッケードの方向に湾曲することが観察された。しかし、注入部位から離れた部位へのサッケードについては反応時間、軌道ともに変化が見られなかった。
以上結果は上丘内においてマップ上の近傍の点同士は互いに興奮させあう関係にあるが、離れた部位間の抑制(long range remote inhibition)は少なくともサッケードの開始や軌道の生成に影響を与えるほどには強くないことが明らかになった。
図1
 


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