これまでの主な成果
 
9. 上丘局所神経回路(9)麻酔下ラット個体での上丘浅層―中間層結合の存在の証明(Katsuta & Isa, Neurosci Res 2003)。
Katsuta H, Isa T (2003) Release from GABAA receptor-mediated inhibition unmasks interlaminar connection within superior colliculus in anesthetized adult rats. Neuroscience Research, 46:73-83.

我々はラットのスライス標本において浅層の電気刺激によって中間層ニューロンにEPSPが生じること、さらにそのEPSPはbicucullineの投与によって顕著に増強されることから、上丘浅層から中間層への信号伝達にはGABA作動性の抑制が減弱することによって開閉する「ゲート機構」が存在することが示唆された(Isa et al. 1998)。
本研究では麻酔下のラットを用いて、in vivoでも同様な機構が存在することを検証した。
イソフルレン麻酔下で筋弛緩剤で非動化したラットにおいて視神経を電気刺激し、反対側の上丘の様々な深さにおいてフィールド電位を記録した。その結果、弱い電気刺激では視神経の中のY線維のみが活性化される。その場合、上丘浅層の最表層では陽性電位、そして浅層の深い部分では陰性電位が記録された。その陰性電位は中間層では減弱した。W線維も活性化するより強い刺激を用いると、浅層の最表層では陰性電位が生じたが、より深い部位では反転し、陽性電位となった。そして連発刺激などを用いても中間層より深い部位では決して陰性電位は観察されなかった。以上の結果はFukuda et al. (1978)の結果を確認するもので、通常は視神経の活動は上丘浅層に興奮性シナプス電位は生成させるがその興奮は中間・深層には伝播しない。しかし、上丘の中間層にbicucullineを投与すると、長期間(数百ミリ秒)持続する陰性電位が中間・深層で観察された。また、この電位は記録側の大脳皮質を全て除去しても残存したので、大脳皮質を経由するものではなく、上丘浅層から中間層へ直接伝播されたものと考えられた。この結果はスライス標本で細胞内電位で観察された結果に対応しており、in vivoにおいても中間層のGABAA受容体を介する抑制が減弱すると、視神経の活動は浅層を介して直接中間層ニューロンに強い興奮を生成させることを示している。
図1
 


研究室TOPへ 生理研のホームページへ