3. マウスの上丘電気刺激により誘発されるサッケード運動とその制御の分子機構
私たちの研究室ではこれまで、げっ歯類の上丘のスライス標本を用いて、サッケード運動の制御に重要な役割を果たす中脳上丘の局所神経回路の構造と機能を解析してきました。そしてその結果の一部を覚醒行動中のサルにおいて検証するという研究戦略をとって着ましたが、それとは別により直接的に局所神経回路の解析結果を行動につなげる実験系として覚醒マウスの眼球運動を解析する実験系の構築に努めてきました。その結果、これまでに市販の高速ビデオカメラを用いて240Hzというフレームスピードで眼球運動をon-line計測できる眼球運動計測システムの開発に成功しました(Sakatani & Isa, Neurosci Res 2004)。そしてこの計測システムを用いて、頭部固定下のマウスにおいて中脳上丘の微小電流連発刺激の効果を解析したところ、これまでにネコや霊長類で観察されてきたのと類似したサッケード様の急速眼球運動が観察されました。そして上丘の様々な部位の刺激効果を比較すると、吻側部の刺激では小さな振幅の運動、尾側部の刺激では大きな振幅というようにネコやサルと同様な傾向が観察されるものの、吻側部内側の両眼の視野が重複する部位では特異的な運動が観察されるなど、前眼動物であるネコや霊長類とは異なる、側眼動物特有のマップ構造も見られるようです。
これまでにこのような動物を用いて抑制性神経伝達物質GABAの合成酵素のひとつである GAD65のノックアウトマウスや上丘に存在するNMDA受容体サブユニットのノックアウトマウスを用いて眼球運動の解析を行っています。そのときの行動解析の手助けになるのがこれまでに知られている図のようなサッケード制御に関わる神経回路モデルです。このようなモデルを基礎として考えることで、ノックアウトマウスのphenotypeが回路モデルのどの構成要素の異常として説明できるかをシミュレーションを含めたsystem biology的なアプローチで調べています。このような研究戦略は我々のグループの極めてユニークなものであると自負しています。
 


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