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大脳皮質の神経細胞棘突起の同じところに出現消失を繰り返す抑制性シナプス

2016年04月25日 研究報告

 脳には、環境や経験によって、シナプス結合を変化させるという「可塑性」がある事が知られています。学習時などの興奮性神経のシナプス結合の再構成は、樹状突起上にある棘突起の動態観察などでin vivo imaging観察法用語1を使った研究等でも知られていますが、抑制性シナプスの動態観察は行われていませんでした。本研究では、3種類の蛍光蛋白ラベル処理を施したマウスの大脳皮質視覚野の表層の錐体細胞の樹状突起上で起きる抑制性シナプスと棘突起の動態変化を、in vivoで、大容積、高解像度の2光子顕微鏡用語2を用いて明らかにしました。

 実験では、マウスの胎生期16日の胎児の大脳皮質前頭部に3種類の遺伝子を入れ、大脳皮質の2/3層の錐体細胞を黄色蛋白で標識興奮性シナプスを赤色蛍光蛋白で標識抑制性シナプスを青色蛍光蛋白で標識し、出産させました。生後49日までに、大脳皮質一次視覚野上の頭蓋に穴を開けカバーグラスで覆ったcranial windowを作製し、上記3種類の遺伝子でラベルされた神経細胞の樹状突起を、2光子顕微鏡下で10日間にわたり毎日1回in vivo imaging観察し、2/3層の錐体細胞の樹状突起上の興奮性シナプスと抑制性シナプスの構造的な可塑的な動態を検討しました。

 その結果、棘突起に存在する抑制性シナプスの中には、面白い事に、同じ場所で出現や消失を繰り返すものがある事がわかりました。その後、マウスの脳を電顕観察用に組織処理し、赤色蛋白で標識した構造と青色蛋白で標識した構造が本当にシナプス結合である事を、電子顕微鏡観察により確認しました。この抑制性シナプスの出現消失は、その棘突起に入力している興奮性シナプスを必要に応じて機能的に調整している事を示しており、可塑性の新しい様式と考えられます。この研究は、将来的に学習や記憶機構の解明に繋がる結果かもしれません。

 

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用語説明

1. in vivo imaging観察法

頭蓋骨に丸い穴を開けて、そこをカバーグラスで被ったcranial windowを作成し、脳の動態を生きたまま直接顕微鏡で観察する新しい手法。

2. 2光子顕微鏡

二光子励起顕微鏡は特殊レーザーをうまくコントロールすることによって、「細胞を傷つけにくい」「深いところまでレーザーが届くので観察したいものが厚くても深い箇所を観察することができる」「2つのレーザーを使うので、一定以上のエネルギーを与える場所をピンポイントで操作できる」という利点を持っている、生きている生き物の体を観察するのに最適な道具です。

(「ブレインミステリー、第10回生き物のらしさとは何か?」から抜粋)

https://www.nips.ac.jp/nipsquare/sknews/series/entry/2010/01/post.html

科研費・助成金情報

科研費

 基盤研究(B) 25290012

 新学術領域適応回路シフト (Number 3603); 26112006と15H01456;

自然科学研究機構CNSI新分野創成センター研究補助金 IS261004

共同研究情報

研究者名:Villa KL, Berry KP, Subramanian J, Nedivi, E

研究機関名:Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA 02139, USA

研究者の所属講座名、部門名:Picower Institute for Learning and Memory

 

研究者名: Cha JW, So PT

研究機関名:Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA 02139, USA

研究者の所属講座名、部門名: Department of Mechanical Engineering

 

研究者名: Oh CO, Kwon H-B

研究機関名:Max Planck Florida Institute for Neuroscience, Jupiter, FL 33458, USA

研究者の所属講座名、部門名:Department of Mechanical Engineering

 

リリース元

Title: Inhibitory synapses are repeatedly assembled and removed at persistent sites in vivo.

Authors: Villa KL, Berry KP, Subramanian J, Cha JW, Oh CO, Kwon H-B, Kubota Y, So PT, Nedivi, E

Journal: Neuron

Issue: 89

Date: 2016-2-17

URL (abstract): http://www.cell.com/neuron/abstract/S0896-6273(16)00011-8

DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2016.01.010

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