
糸は二つの液を混ぜて作ります
2016年04月25日
研究報告
小型甲殻類は多様な形態を持つため、その進化の過程を形態学的に追跡するのに適した材料です。今回対象としたタナイスは、世界中の水域に生息する体長数ミリ程度の甲殻類であり、一部の分類群はその脚から糸状の分泌物を出し巣作りや移動などに使用することが知られています。特にキスイタナイスと呼ばれる種は、糸を出す構造を持った脚とその構造を持たない脚が同一個体内に並列し存在します。それら両者の脚の内部構造を比較することにより、出糸腺有る無しでどう構造が変わるのか、ひいては出糸腺の無い状態から有る状態への進化においていかなる形態学的変更が行われたのかを明らかにできると期待されます。
今回,我々の共同研究チームはこれらを明らかにするため、タナイスのそれぞれの脚の内部構造を連続ブロック表面走査電子顕微鏡(SBF-SEM)を用いて立体的に解析しました。その結果、出糸腺が胴体の中に二種類存在すること、そしてそれらの分泌物を混合する仕組みが脚先端に備わっていることが分かりました。これらがエポキシ樹脂のように、二種類の液を体外に出すと同時に混合させ硬化させているものと考えられました。
このような小型甲殻類の発生比較により、今後、進化の過程で新しい形態が出現するメカニズムについても明らかにできるものと期待されます。

科研費・助成金情報
JSPS
NSERC Canada Discovery Grant RGPIN-2014-04863
生理研計画共同研究
共同研究情報
研究者名:梶智就、A. Richard Palmer
研究機関名:University of Alberta
研究者の所属講座名、部門名:Department of Biological Sciences
研究者名:角井敬知
研究機関名:北海道大学
研究者の所属講座名、部門名:理学部生物科学科
リリース元
Title: Mesoscale morphology at nanoscale resolution: serial block-face scanning
electron microscopy reveals fine 3D detail of a novel silk spinneret system in a tube-building tanaid crustacean
Authors: Tomonari Kaji, Keiichi Kakui, Naoyuki Miyazaki, Kazuyoshi Murata and A. Richard Palmer
Journal: Frontiers in Zoology
Issue: 13:14-
Date: 2016.3.22 published
URL (abstract): http://frontiersinzoology.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12983-016-0146-0
DOI: 10.1186/s12983-016-0146-0