
聴覚変化関連脳活動と不安傾向
私達は、音や色など様々な感覚情報が突然変化する時の脳の活動について研究してきました。私達の脳は感覚系に何らかの変化が発生することにとても敏感で、実験的にこのような変化する感覚情報を呈示しますと、顕著な脳活動が生じます。脳波を使って非常に明瞭にこの脳活動を観察することができます。今回の研究では、この脳活動(変化関連脳活動)の強さと性格傾向に何らかの関連があるかどうかを調べました。変化に敏感に応答するのは危険に素早く対応するためですから、無意識に起こるこのような仕組みが何らかの性格傾向と関連しているかもしれないと考えたからです。性格傾向は、TCIという質問紙法で検査しました。変化関連脳活動は、持続する60dB(デシベル)の音を突然50dBに弱くする方法で記録しました。脳の活動は、音を突然大きくしても小さくしても、同じように起こります。
変化関連脳活動の大きさは、TCIで調べた項目のうち、不安傾向を示す尺度と相関しました。不安傾向が強い人ほど(損害回避の点数が高く、自己志向性が低い)、変化に自動応答する脳活動が強いことを示しています。この脳活動は、環境に発生した新たなイベントに素早く対応する、生存のための防御機構の一部と考えられます。この機能が過剰である時には、日常生活の些細な感覚イベントであっても無意識のうちに防御態勢をとることになり、心身に負担をかけることになります。
不安傾向は、パニック障害(不安神経症)やうつ病の発症と関連のあることがわかっています。今回の研究結果から私達は、生まれながらの一定の性格傾向がこれらの疾患の発症に関係しており、その一部は脳の活動を観察することで評価できる、と考えています。
科研費・助成金情報
科研費(基盤C、元村英史)
共同研究者情報
棚橋めぐみ、元村英史、大山慶子、谷井久志、小西喜昭、城山隆、岡田元宏
三重大学精神神経科学分野
西原真理
愛知医科大学・学際的痛みセンター
リリース元
Title: Auditory change-related cerebral responses and personality traits
Authors: Tanahashi M, Motomura E, Inui K, Ohoyama K, Tanii H, Konishi Y, Shiroyama T, Nishihara M, Kakigi R, Okada M.
Journal: Neuroscience Research
Issue: 103:34-9
Date:2016.Feb
URL: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168010215002242
DOI: doi:10.1016/j.neures.2015.08.005