
細胞同士の隙間の漏れを防ぐ仕組み
私たちの体の皮膚や消化管の表面は、細胞が敷石のように並んだ「上皮」とよばれるシート構造でできています。上皮は外界(消化管の内側も体の外です)から体を隔てるバリアとして体を保護していますが、上皮が効率のよいバリアとしてはたらくためには、上皮をつくる細胞同士の隙間の漏れを防ぐ必要があります。そこで、私たちヒトを含む脊椎動物では、タイトジャンクションとよばれる構造がジッパーのように細胞同士を結合させてその隙間を塞いでいます。一方、無脊椎動物ではセプテートジャンクションとよばれる別の構造がこの役割を担っていますが、医学的に重要なタイトジャンクションに比べるとセプテートジャンクションの研究は大きく遅れています。タイトジャンクションとセプテートジャンクションには機能的にも形態的にも類似点があります。すなわち、タイトジャンクションに加えてセプテートジャンクションのしくみが明らかになれば、バリアとしてはたらくために上皮が進化の過程でとってきた共通のメカニズムについて理解を深めることができます。
今回、私たちは、ショウジョウバエの腸管上皮のセプテートジャンクションの形成を制御する因子を遺伝学的に探索する過程で、セプテートジャンクションの新しい構成分子Tsp2Aを同定しました。Tsp2Aはテトラスパニンファミリーに属する4回膜貫通型のタンパク質です。Tsp2Aを失ったショウジョウバエを作製したところ、幼虫の段階で腸管上皮のセプテートジャンクションが正常に形成されず、食べた物が腸管から体の中に漏れて死ぬことが分かりました。さらに、Tsp2Aは、セプテートジャンクションの構成分子として私たちが先に報告していた2種の膜タンパク質Ssk・Meshと協調してセプテートジャンクションを形成することも明らかになりました。
本研究により、上皮の最も大切な機能の1つであるバリア機能にテトラスパニンタンパク質が直接関わっていることが初めて明らかになりました。私たち脊椎動物もテトラスパニンタンパク質を持っていることから、タイトジャンクションを含む脊椎動物の細胞間結合の形成・維持や上皮のバリア機能においてもテトラスパニンが関与しているか、今後の研究に興味が持たれます。
本研究成果はJournal of Cell Science誌に掲載され、注目論文として同号の”IN THIS ISSUE”欄で紹介されました。
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科研費補助金 基盤研究C(代表研究者:泉 裕士)
リリース元
Title: A tetraspanin regulates septate junction formation in Drosophila midgut
Authors: Yasushi Izumi, Minako Motoishi, Kyoko Furuse and Mikio Furuse
Journal: Journal of Cell Science
Issue:129 (6)
Date: March 15
URL (abstract): http://jcs.biologists.org/content/129/6/1155
DOI: 10.1242/jcs.180448
URL (IN THIS ISSUE): http://jcs.biologists.org/content/129/6/e0605