
恐怖による交感神経活動の神経基盤
恐怖刺激などの環境ストレスに対処するためには交感神経系の活動上昇は必要不可欠である。最近の脳機能研究では、前帯状皮質や前部島皮質などの皮質領域が交感神経活動と関連していることが報告されています。しかし、恐怖刺激に対する交感神経反応に関連する脳領域間の機能的結合性については、ほとんどわかっていないのが現状です。
そこで、私たちは機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて32人の健常者に対してホラー映画とコントロール映画を視聴した時の脳活動を調査しました。fMRIの撮像時には指先の温度を交感神経反応の指標として測定しました。MRIの撮像後に、被験者はこれらの映画を再度視聴し、恐怖の程度を3秒毎に評価しました。
結果、前帯状皮質と両側の前部島皮質と両側の前部前頭前野は、交感神経活動と関連していることが確かめられました。機能的結合性の解析では、ホラー映画を見た時はコントロール映画を見た時と比較して扁桃体と前帯状皮質、扁桃体と前部島皮質との機能的結合性が上昇していました。また、左扁桃体と前帯状皮質との機能的結合性は、恐怖の程度に比例して上昇することが明らかになりました。
これらの結果より、左扁桃体と前帯状皮質との機能的結合性の増加が恐怖刺激に対する交感神経反応の神経基盤の一部を構成していることが示唆されます。
私たちの結果は恐怖と自律神経系とのつながりにおいて前帯状回が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。これらの研究を不安障害や自律神経症状を呈する患者に応用することで、今後の不安障害や自律神経失調症などの疾患の病態解明や治療技術開発の一助となるかもしれないと考えます。
科研費や補助金、助成金などの情報
Development of biomarker candidates for social behavior” carried out under the Strategic Research Program for Brain Sciences from the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology of Japan, by Grant-in-Aid for Scientific Research #15H01846.
Smoking Research Foundation (#1737).
共同利用研究者情報
吉原一文 九州大学病院 心療内科
田邊宏樹 名古屋大学大学院環境学研究科 社会環境学専攻
川道拓東 首都大学東京 人間健康科学研究科
山﨑未花 福井大学 子どものこころの発達研究センター
リリース元
Title: Neural correlates of fear-induced sympathetic response associated with the peripheral temperature change rate.
Authors: Yoshihara K, Tanabe HC, Kawamichi H, Koike T, Yamazaki M, Sudo N, Sadato N.
Journal: Neuroimage
Issue: (134) [Epub ahead of print]
Date: (2016 Apr 19) [Epub ahead of print]
URL (abstract): http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27107469
DOI: 10.1016/j.neuroimage.2016.04.040