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介在細胞の機能を測る

2016年05月25日 研究報告

脳の神経回路は、興奮性の錐体細胞と抑制性の介在細胞から成っています。興奮と抑制のバランスでその回路の出力の強さやタイミングを調節していて、どちらも情報処理に不可欠です。介在細胞は、錐体細胞に発生する興奮性の電気活動と反対向きの電気活動を発生して錐体細胞の興奮を抑制します。この時にはたらく伝達物質がギャバ(GABA)です。しかし、この抑制性の電気活動を観察するのは容易ではありません。ヒトでは全く方法がありません。ですから、ヒトでどのように介在細胞がはたらいているのかを調べることはできませんでした。一方で多くの病気(例えば統合失調症やてんかん、自閉症)で介在細胞の異常が推定されています。私達は今回の研究で、介在細胞による抑制を観察する方法の確立に取り組みました。

 図の上段にあるように、一定の背景音の中に、背景から逸脱する音を挿入します。音が始まって400ミリ秒のところで、音の大きさを10dB(デシベル)大きくします。これをテスト音とします。私達の脳は背景からはずれる感覚情報にとても敏感で、明瞭な脳活動が発生します。この活動を脳磁図という方法で記録したのが青い線です。テスト音の前に、背景からわずかに逸脱する音を1ミリ秒間挿入しますと(これを先行音とします)、先行音自体はほとんど脳の反応を起こしませんが、テスト音に対する反応を抑制します(赤線)。図は先行音とテスト音の間が60ミリ秒の例ですが、この間隔を10ミリ秒から800ミリ秒まで変えた場合の抑制の程度(抑制率)を調べました。下段がその結果です(13人平均値)。このカーブが、先行音により発生した抑制性電気活動の時間経過を反映すると考えられます。

 抑制の時間経過をみますと、少なくとも3つの抑制が観察されています。図ではややわかりにくいですが、20〜30ミリ秒、50〜60ミリ秒、それと600ミリ秒付近です。抑制性介在細胞には多くの種類があるので、そのいくつかの抑制活動を観察できたことになります。この観察は脳波でも行うことができます。被験者(検査される人)は、音は無視して無音ビデオをみているだけです。この方法を使って、簡便に介在細胞のはたらき具合を評価することができると考えています。

research report PLOS.jpg

科研費・助成金情報

 

科学研究費(基盤C)、喫煙科学研究財団特定研究 (乾幸二)

 

リリース元

Title: Inhibition in the human auditory cortex

Authors: Inui K, Nakagawa K, Nishihara M, Motomura E, Kakigi R

Journal: PLOS ONE

Issue: 11(5): e0155972

Date: May 24

URL(abstract):http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0155972

DOI: DOI: http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0155972

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