
棲む環境に応じて温度感覚は進化する
動物は砂漠のような灼熱の地域から北極のような寒冷地まで多様な温度条件の環境に生息しています。また、近縁な動物種で外見や生態的な特性が似ている種が異なる温度条件の環境に棲んでいる場合があります。これは、元々は同じような温度環境に棲んでいた動物種が、進化の過程で徐々に異なる温度環境に適応してきた結果であり、そういったことを繰り返すうちに動物は多様な温度条件の環境に生息域を広げてきたと想像されます。例えば、ある動物種が元よりも暑い地域に適応する進化の過程では、暑さに耐えるための新しい仕組みを獲得すると同時に、元々は「暑い」と感じていた温度を「快適」と感じるようになる必要があると考えられます。そこで、今回私たちは、異なる温度条件の環境に棲む近縁な動物種の間で、実際に温度の感じ方(温度感覚)は異なっているのだろうか、また、そういった進化的な変化の仕組みはどの様なものなのだろうか、という点に焦点を当てた研究を行いました。
アフリカに生息するネッタイツメガエルとアフリカツメガエルの2種の間で熱の刺激に対する応答性を比べたところ、より冷涼な環境に棲んでいるアフリカツメガエルのほうが熱刺激に敏感であり、生息環境に応じて温度感覚が変化してきたことが明らかになりました。また、そういった種間の変化は温度を感じる神経にある温度センサーの応答性の違いにより生み出されていること、更に、その応答性の違いは温度センサーを形作るタンパク質の僅かな違いによって生み出されていることも分かりました。
環境温度は時には動物の生死にも関わる影響力の強い環境因子です。動物がどの様な仕組みで環境の温度変化に適応してきたのかを明らかにすることは、地球温暖化による環境変化に対して、動物がどの程度柔軟に対応できるのかを推測する上で有用な情報となると期待されます。
共同研究者情報
研究者名:太田利男、大北真嗣、高橋賢次
研究機関名:鳥取大学
研究者の所属講座名、部門名:農学部・共同獣医学科・獣医薬理学教育研究分野
科研費・助成金情報
文部科学省科学研究費補助金
自然科学研究機構 若手研究者による分野間連携研究プロジェクト
リリース元
Title: Evolution of Heat Sensors Drove Shifts in Thermosensation between Xenopus Species Adapted to Different Thermal Niches
Authors: Shigeru Saito, Masashi Ohkita, Claire T. Saito, Kenji Takahashi, Makoto Tominaga, and Toshio Ohta
Journal: THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY
Issue: VOL. 291, NO. 21, pp. 11446–11459
Date: 2016年5月20日
URL (abstract): http://www.jbc.org/content/early/2016/03/28/jbc.M115.702498.abstract
DOI: 10.1074/jbc.M115.702498