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表面に長い突起構造を持たない感染型トチ様ウイルスを発見

2016年09月27日 研究報告

 村田和義准教授らの研究グループは、日本で発見された蚊が媒介するトチ様ウイルス、オモトリバーウイルス(OmRV)の構造を、クライオ電子顕微鏡を使ってサブナノメートル(100万分の1ミリ以下)の解像度で構造解析しました。結果、この種のウイルスが外界から宿主細胞内に侵入するのに必要と考えられていた長い突起構造は必要ではなく、ウイルス粒子表面の隆起した構造が直接これに関わっていることが示唆されました。

 トチウイルスは、菌類や原生動物などを宿主とする二重鎖RNAウイルスで、外側はキャプシドと呼ばれる正二十面体のタンパク質の殻で覆われています。生涯宿主の外にでることなく、交配や細胞分裂に伴って伝搬していくことが知られています。ところが最近、動物を宿主とするトチ様ウイルスがいくつか発見され、これらは、宿主から出てまた別の宿主に感染できることがわかりました。これらのウイルスの中でこれまで唯一構造がわかっているのが、養殖エビから発見されたInfectious myonecrosis virusIMNV)で、これには図1に示すような長い突起構造(紫色)がありました。以来、この長い突起構造が宿主への吸着や侵入に関係するものと考えられてきました。ところが、最近新たな感染性トチ様ウイルス(OmRV)が日本の河川で採取された蚊から発見されました。構造を解析してみると、IMNVで見られたような長い突起構造は見られませんでした。そして、IMNVと共通するのは、ウイルス粒子表面に隆起した殻の構造でした(図1赤色)。他の非感染性トチウイルスでは、特別にタンパク質のC末端側に伸長した隆起構造部分は見られません。そこで、これらの隆起構造がウイルスの感染性獲得に関与しているのであろうと結論づけることができました。

 トチウイルスを含む二重鎖RNAウイルスは、ロタウイルスなどの小児性下痢症を引き起こすものから、ブルートングウイルスやイネ萎縮ウイルスなど家畜や農作物の病害を引き起こすものなど、我々の身近にも深く関係しています。今回の結果から、その中でトチ様ウイルスがどのように宿主細胞に侵入するのかのメカニズムを解明する手がかりとなるだけでなく、この種のウイルスがいつどのようにして細胞間の行き来が可能になったのかを研究する上で貴重な情報を与えます。

 

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図1 オモトリバーウイルス(OmRV)とIMNV。OmRVは感染性であるが表面の長い突起構造を持たない。スケール10 nm。

共同研究情報

岡本健太、Daniel S. D. Larsson、Martin Svenda、Kerstin Mühlig、Filipe R. N. C. Maia、Laura H. Gunn、Janos Hajdu ウプサラ大学(スエーデン)

小林大介、伊澤晴彦、小林睦生、沢辺京子 国立感染症研究所

 

科研費・補助金、助成金情報

The Swedish Research Council、The Knut and Alice Wallenberg Foundation、The European Research Council、The Swedish Foundation for International Cooperation in Research and Higher Education (STINT)、文部科学省科学研究費助成事業、生理研計画共同研究

 

 

 

リリース元

The infectious particle of insectborne totivirus-like Omono River virus has raised ridges and lacks fibre complexes
Kenta Okamoto, Naoyuki Miyazaki, Daniel S. D. Larsson, Daisuke Kobayashi,

Martin Svenda, Kerstin Mühlig, Filipe R. N. C. Maia, Laura H. Gunn, Haruhiko Isawa,

Mutsuo Kobayashi, Kyoko Sawabe, Kazuyoshi Murata & Janos Hajdu
Journal: Scientific Reports 6:33170 (2016)

DOI: 10.1038/srep33170

 

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