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幼児期発症型アストロサイト依存性白質変性症モデルマウスの作製

2016年11月21日 研究報告

 

 私達が運動・記憶・学習といった日常の活動をする上で脳機能というものが非常に重要であることは広く一般の方にも知られています。この脳機能は、ニューロンと呼ばれる神経細胞の電気的な活動の総和によって作り出されています。そして、ニューロンの電気信号は、白質と呼ばれるいわば「電線の束」のような役割を持つ部位を通って全身へと伝わっていきます。しかし、このように脳機能にとって重要な役割をもつニューロンが、数の上では脳を構成する細胞の少数派であることはあまり一般には知られていません。脳を構成する細胞の大多数はグリア細胞と呼ばれる細胞で、実にニューロンの十数倍も脳内に存在することが知られています。近年、このグリア細胞がニューロンの活動を調節するサポーターのような働きをもつことや、グリア細胞の異常によって脳の白質構造に障害が生じることが明らかになり、脳機能の調節や維持においてグリア細胞が重要性な役割を持つことが認識されるようになってきました。

 

 今回の我々の研究では、グリア細胞異常によって脳白質に障害が生じるMLC病という病気の原因遺伝子に着目し、そのモデルマウスを作成することで、グリア細胞が脳白質の形成や維持にどのような関わりをもつのかを解析しました。私達が作成したモデルマウスではMLCの原因遺伝子を過剰発現させましたが、生後数週間の内に脳白質の障害が観察され、MLC病に類似した病変を形成しました。すなわちグリア細胞に膨張が生じと同時に、白質に嚢胞(図で白く抜けている部分)が形成されたのです。遺伝子操作技術を用いてグリア細胞の膨張を抑制することで白質異常が軽減することも明らかになりました。またこの作用機序として、過剰に産生されたMLCがグリア細胞膜上のナトリウムポンプの構成タンパク質と結合し、その活性をなくすることであることが分かりました。

 今回の研究から、グリア細胞の形や機能が脳白質の形成・発達・維持の過程に重要な意味を持っていることが、分かりました。今後、我々のモデルマウスを使用することで、脳白質がどのように形成・維持されるのか、そのメカニズムの解明に役立つとものと考えられます。

 

生理研_広報用_MLC.jpg

 

共同研究情報

研究者名:杉尾翔太

研究機関名:群馬大学大学院医学系研究科

研究者の所属講座名、部門名:分子生物学

研究者名:田中謙二

研究機関名:慶應義塾大学医学部

研究者の所属講座名、部門名:精神科、生物学的精神科学講座

研究者名:遠山縞二郎

研究機関名:岩手医科大学

研究者の所属講座名、部門名:医歯薬総合研究所

研究者名:渡辺雅彦

研究機関名:北海道大学医学研究科

研究者の所属講座名、部門名:解剖発生学講座

 

科研費・補助金、助成金情報

新学術領域「グリアアセンブリ」

リリース元

Title: Astrocyte-mediated infantile-onset leukoencephalopathy mouse model.

Authors: Sugio S, Tohyama K, Oku S, Fujiyoshi K, Yoshimura T, Hikishima K, Yano R, Fukuda T, Nakamura M, Okano H, Watanabe M, Fukata M, Ikenaka K, F Tanaka K.

Journal: Glia

Issue:

Date:17th /Oct/ 2016

URL (abstract): https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27748972

DOI: 10.1002/glia.23084

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