
Sulfatase2 はSulfatase1と協調的にShhシグナルを調節することにより運動ニューロンからオリゴデントロサイト前駆細胞への分化を制御する
私達の神経系は神経細胞やグリア細胞と呼ばれる細胞種が強調して働くことで、様々な機能を発揮しています。脊髄もその神経系の1つで、様々な細胞が存在しています。今回は、その脊髄で様々な細胞種が産み出される期間である、マウスの胎生期に着目して研究を行いました。
発達中の脊髄では、背側から腹側に沿って発現する遺伝子によって異なるドメイン構造を形成します。この構造はWntやShhと呼ばれる因子によって協調的に形成されます。これらの因子は脊髄の中で濃度勾配を形成し、濃度依存的に脊髄の発生が決定されます。この濃度勾配形成はヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)と関与しています。
HSPGは、コアとなるタンパク質の4箇所に特殊な糖鎖修飾がされたヘパラン硫酸(HS)が結合した構造です。HSPGの糖鎖修飾はShhのシグナル伝達に重要な役割を担っています。脊髄ドメイン構造の1つであるpMNドメインは、運動神経とオリゴデンドロサイトと呼ばれる異なった細胞を産生します。発生の早い時期に運動神経を産生し、その後引き続いてグリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトを産み出すようになります。この運動神経からオリゴデンドロサイトへの産生様式の変化にもShhシグナルの入力が必要です。私達はこの強いシグナルが生み出されるメカニズムに関して、HSPGの硫酸基の1つを分解する酵素であるサルファターゼSulfatase1 (Sulf1) とSulfatase2 (Sulf2)に着目して研究を進めました。
以前の研究で、Sulf1が硫酸基を分解することで、Shhのシグナル伝達を制御することが報告されていました。そこで、今回の研究ではSulf2の機能に関して重点的に解析を行いました。調べていくうちに、Sulf2はSulf1と同じような場所で機能し、しかも両者が協調的に能力を発揮することで、産生様式を運動神経からオリゴデンドロサイトへと変化させるということがわかりました。さらに、実は、Sulf1やSulf2が独立して機能するだけでは、Shhのシグナルを十分に伝えることが出来ないということがわかりました。両者の酵素が揃って機能したときにだけ、正常なShhシグナルの伝達が可能となったのです。このことは、両者は同じ機能を持っているにも関わらず、片方だけの活性ではオリゴデンドロサイトを産み出す様式への変化には不充分であることを意味しています。
これらの結果より我々は「運動神経からオリゴデンドロサイトへの産生スイッチングに充分なShhシグナルをpMNドメインに入力するためにはSulf1とSulf2両方の活性が必要であり、ある一定以上のHSPGの硫酸基が除去されなければならない。」ということ示しました。この研究は、脊髄の発生におけるSulf2の機能を明らかにし、発生期におけるHSの機能を考える上で重要な情報を提供しています。
共同研究者情報
研究者名:桝 和子
研究機関名:筑波大学
研究者の所属講座名、部門名:医学医療系分子神経生物学グループ
研究者名:桝 正幸
研究機関名:筑波大学
研究者の所属講座名、部門名:医学医療系分子神経生物学グループ
研究者名:内村 健治
研究機関名:名古屋大学
研究者の所属講座名、部門名:医学系研究科生物化学講座分子生物学
研究者名:門松 健治
研究機関名:名古屋大学
研究者の所属講座名、部門名:医学系研究科生物化学講座分子生物学
科研費・補助金、助成金情報
基盤研究(B); 酸性糖鎖による神経発生制御機能の解明—モルフォゲン活性調節を介して−
新学術領域; 大脳皮質構築
リリース元
Title:Sulfatase2 Modulates Fate Change from Motor Neurons to Oligodendrocyte Precursor Cells through Coordinated Regulation of Shh Signaling with Sulfatase1
Authors: Wen Jiang, Yugo Ishinoa, Hirokazu Hashimoto, Kazuko Keino-Masu, Masayuki Masu, Kenji Uchimura, Kenji Kadomatsu, Takeshi Yoshimura, Kazuhiro Ikenaka
Journal: Developmental Neuroscience
Date: 20th /Feb/ 2017 February 20, 2017