
ノロなどのカリシウイルスに見られる属を越えた構造の多様性を発見
カリシウイルスは、小さな直径40nm程度の正二十面体の殻(キャプシド)で覆われ、その中に遺伝子として一本鎖のRNAをもつウイルスファミリーです。ノロウイルスに代表されるように人畜に急性胃腸炎などの病気を引き起こすことで知られています。カリシウイルス科には、ノロウイルス、サポウイルス、ラゴウイルス、ベシウイルス、ネボウイルスの5つの属が存在します。
本研究では、2009年に海外の製薬メーカーで薬を作るための培養細胞に混入し、大きな経済的損害を引き起こしたことで同定されたベシウイルス2117のキャプシドの構造を、クライオ電子顕微鏡を使って解析し、他のカリシウイルスの構造と比較しました。
その結果、ベシウイルス2117は同じベシウイルス属のネコカリシウイルス(FCV)とは、キャプシドの構造が大きく異なり、むしろ、全く別属のサポウイルスやラゴイウルスと良く似ていることが分かりました(図1)。このことから、カリシウイルスに見られるキャプシドの構造は、遺伝的な要因以上に、環境や感染宿主などの別の要因による多様な構造変化を示すことが明らかになりました。
本成果は、ウイルスタンパク質の構造多様性に新しい知見を与えるとともに、毎年人畜に大きな被害を及ぼしているカリシウイルスによる急性胃腸炎などに対する治療薬、特にワクチンや中和抗体の開発に役立つと期待されます。
図1 主なカリシウイルスのクライオ電顕構造。右からベシウイルス2117、サポウイルス、ネコカリシウイルス。上図:三次元再構成像、下:中央断面図。
共同研究者情報
Grant S. Hansman (Department of Virology, University Hospital Heidelberg, Germany)
David Taylor, Kazuyoshi Murata (NIPS, Japan)
リリース元
Title: Vesivirus 2117 capsids more closely resemble sapovirus and lagovirus particles than other known vesivirus structures
Authors: Conley M, Emmott E, Orton R, Taylor D, Carneiro DG, Murata K, Goodfellow IG, Hansman GS, Bhella D
Journal: Journal of General Virology
Issue: 98: 68–76
Date: Jan. 2017
URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5370393/
DOI: 10.1099/jgv.0.000658