
抗寄生虫剤イベルメクチンによるGIRKチャネルの活性化機構の解明
イベルメクチン(ivermectin, IVM)は大村博士とCampbell博士により開発された、世界で多く使用されている抗寄生虫剤です。彼らは寄生虫感染症の治療法確立に貢献し、2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。IVMは、無脊椎動物の神経や筋細胞に存在するグルタミン酸作動性Cl−(GluCl)チャネルの膜貫通領域に結合し、チャネルを活性化します(図:左側)。その結果起こる細胞の過分極により寄生虫が死に至ります。IVMはGlycine受容体等のCysループ受容体およびATP受容体チャネルP2Xの膜貫通領域にも結合して活性化することが報告されています。
陳以珊特任助教らは、ツメガエル卵母細胞にG蛋白質結合型内向き整流性K+(GIRK)チャネルを発現させて解析を行いました。結果、IVMの投与が、GIRKチャネル(特にGIRK2)を直接活性化することが明らかとなりました。さらに、IVMによるGIRKチャネル電流増加作用がGタンパク質に依存しないこと、またPIP2 に依存することを示しました。ラット海馬培養神経細胞を用いた電気生理実験においても、IVMの投与によるGIRKチャネル電流増加が観察されました。変異体を用いた解析によりIVM作用部位の同定を試みた結果、GIRK2チャネルの第1膜貫通領域 (TM1) とN末端細胞内領域をつなぐSlide helix 上に位置するIle82が、IVMによる活性化に重要であることがわかりました(図:右側)。
これらの結果から、IVMによるGIRKチャネル活性化の鍵を握る部域は、細胞外に近い膜貫通領域ではなく、膜貫通領域と細胞内領域の界面であることが明らかとなりました。この活性化機構は、既に報告されているCysループ受容体やP2X受容体とは異なるため、IVMのイオンチャネルに対する作用機構の多様性が示唆されます。
図:GluClチャネルにおけるIVM結合部位(左側)およびIVMによる活性化に重要であるGIRKチャネルのアミノ酸残基(右側)
共同研究者情報
生理学研究所 生体膜研究部門:深田優子
京都大学・WPI-iCeMS:上杉志成
リリース元
Title: Ivermectin activates GIRK channels in a PIP2-dependent, Gβγ-independent manner and an amino acid residue at the slide helix governs the activation
Authors: I-Shan Chen, Michihiro Tateyama, Yuko Fukata, Motonari Uesugi, Yoshihiro Kubo
Journal: The Journal of Physiology
Date: July 17, 2017 Epub ahead of print
URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP274871/epdf
DOI: 10.1113/JP274871