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キチナーゼの反応素過程の定量計測にクライオ電顕トモグラフィーが活躍

2017年11月14日 研究報告

 キチンは、カニやエビ、昆虫などの殻を構成する生体高分子で、地球上では植物が作るセルロースに次いで豊富に存在します。キチンの構成分子であるNアセチルグルコサミンは我々が利用できる貴重な窒素源として、化学や製薬の分野で利用することができます。しかし、キチンは非常に硬い結晶構造をしているため、これを利用するためには、高温や、強酸・強アルカリなどによる激しい処理が必要となります。他方、自然界では細菌やカビの一種がキチナーゼと呼ばれる酵素を分泌してキチンを分解することが知られています。この反応を利用することができれば、より簡便にキチンから窒素を取り出すことができるようになります。
 本研究論文では、キチナーゼがキチンを分解する様子を調べるため、1分子蛍光イメージングという手法が用いられました。そして、キチナーゼがキチンに結合して、キチンを分解しながら移動し、最後にキチンから離れるという酵素反応素過程を計測しています。測定には、チューブワームの一種サツマハオリムシが作る幅50 nm*1、長さ数μm*2棒状のキチンの結晶が用いられました。ところが、このキチン結晶は、結晶の各表面によって、キチン分子の向きが異なるため、キチナーゼの反応の様子が異なります。つまり、結晶中のキチン分子の向きがわからないと、正確な測定ができません。そこで、本研究では、生理研のクライオ電子顕微鏡を用いて溶液中に近い状態のキチン結晶の電顕トモグラフィー解析*3を行い、結晶中におけるキチン分子の向きとその大きさを決めることに成功しました(図1)。
 本結果からキチナーゼがキチンを分解する詳細な過程を明らかにでき、この酵素反応を利用したバイオリアクターなどの産業応用の道が開けると期待されます。

nakamura.jpeg

 図1 キチン結晶のクライオ電顕トモグラフィー。A)全体像、B)各キチン結晶の拡大像(上)と断面像(下)。C)キチン結晶におけるキチン分子の並び。

用語解説

*1 1 nm:1 nm(ナノメートル)は千分の1 μm(マイクロメートル)
*2 1 μm:1 μm(マイクロメートル)は千分の1 mm(ミリメートル)
*3 電顕トモグラフィー解析:電子顕微鏡の中で試料を±70°程度の範囲で傾斜させて像を撮影し、その連続傾斜像の逆投影から試料の立体再構成を行う方法。
 

共同研究者情報

中村彰彦、飯野亮太(岡崎統合バイオサイエンスセンター、分子科学研究所)
ソンチホン、村田和義(生理学研究所)

 

科研費・補助金、助成金情報

 
科研費(基盤研究(B)、新学術領域研究、挑戦的研究(萌芽)、研究活動スタート支援、若手研究(B)、)、自然科学研究機構オリオンプロジェクト、先端バイオイメージング支援プラットフォーム

リリース元

Title: Rate constants, processivity, and productive binding ratio of chitinase A revealed by singlemolecule analysis

Authors: Nakamura A, Tasaki T, Okuni Y, Song C, Murata K, Kozai T, Hara M, Sugimoto H, Suzuki K, Watanabe T, Uchihashi T, Noji H, Iino R

Journal: Physical Chemistry Chemical Physics

Date: Oct. 24, 2017

URL: http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2014/CP/C7CP04606E#!divAbstract

DOI: 10.1039/C7CP04606E

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