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低酸素環境におけるヒトの高次認知機能の検討

2017年12月01日 研究報告

 平成28年より、8月11日は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」日として、国民の祝日「山の日」となりました。また、山ガールブームで登山人口は幅広い年齢層で急増し、レジャーや健康・体力の維持・増進のための生涯スポーツとして親しまれています。標高3000m級の山岳からなる日本アルプスの登山者数も年々増加しています。しかしその一方で、高地には危険も潜んでいます。登山中の遭難・滑落事故やアスリートの高地トレーニング中の事故などがその例です。適切なルートを選択できなかったり、周りの状況にあった判断が出来ないことなどが原因の一つとして考えられ、注意力や判断力といった認知機能の低下が関係している可能性があります。しかし、高地での認知機能低下には、低圧・低酸素・低温・低湿といった環境要因や身体的要因など複数の要因が絡み合っていると考えられ、その実態は明らかになっていませんでした。そのため、本研究では環境要因の1つである低酸素に着目し、認知機能への影響について検討しました。我々が着目したのは、ヒトの高次認知処理過程を反映しているとされる特殊な脳波「P300成分」(図)です。P300成分は、聴覚などの感覚刺激が与えられてから約300ミリ秒(0.3秒)後に出現する反応で、加齢や認知症などによって反応が小さくなることが知られています。低酸素環境を作るために、被験者には酸素濃度を12%に調節した吸気用ガスを、呼吸用マスクを通して吸ってもらいました。また常酸素環境の脳反応と比較するため、同じく呼吸用マスクを通して部屋の空気を吸ってもらう条件も設定しました。
 実験の結果、P300の反応は低酸素環境では小さくなりましたが、常酸素環境では変化しないことがわかりました。またP300成分とは別に触覚(体性感覚)に関係する脳反応についても検討しましたが、低酸素の影響は受けないこともわかりました(図)。つまり、触覚に関係するような、低次認知処理過程と呼ばれる脳反応は低酸素環境の影響を受けず、注意力や判断力に関係するような高次認知処理過程で影響があると考えられました。さらに、高次認知における動作を行おうとする(実行)機能も動作を止めようとする(抑制)機能もともに低下することがわかりました。
 今回の研究成果から、登山や高地トレーニングでの事故防止や対処法の確立に結びつくと期待されます。

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共同研究者情報

研究者名:中田大貴
研究機関名:奈良女子大学
研究者の所属講座名、部門名:研究院生活環境科学系

研究者名:宮本忠吉
研究機関名:森ノ宮医療大学
研究者の所属講座名、部門名:保健医療学部

研究者名:小河繁彦
研究機関名:東洋大学
研究者の所属講座名、部門名:理工学部

研究者名:柿木隆介
研究機関名:生理学研究所
研究者の所属講座名、部門名:統合生理研究部門

研究者名:芝﨑学
研究機関名:奈良女子大学
研究者の所属講座名、部門名:研究院生活環境科学系
 

科研費・補助金、助成金情報

若手研究(A):暑熱環境におけるヒト脳認知機能低下を防ぐ対処法の開発
 

リリース元

Title: Effects of acute hypoxia on human cognitive processing: a study using ERPs and SEPs.
Authors: Hiroki Nakata, Tadayoshi Miyamoto, Shigehiko Ogoh, Ryusuke Kakigi, Manabu Shibasaki
Journal: Journal of Applied Physiology
Issue: 123 (5) 1246-1255
Date: Nov 1
URL (abstract): http://jap.physiology.org/content/123/5/1246.long
DOI: 10.1152/japplphysiol.00348.2017
 

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