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真菌感染に伴うゆきすぎた炎症と骨破壊を防ぐ神経の働きを解明 ~時には痛みを我慢しよう~

2018年02月26日 研究報告

いつもは目に見えませんが、私たちの肌には小さな細菌や真菌がたくさんいます。真菌は、細菌と比べると普段はこれといった害のない病原体ですが、私たちの免疫力が弱くなっている時などは体の中に侵入して活発に活動を始めます。その代表例がカンジダ感染です。カンジダは真菌の仲間でいつもは非常に大人しい病原体です。しかし、骨の手術のあとや免疫不全状態にある患者さんの体の奥で運悪く増殖してしまうと、痛みとともに炎症が激しくおこり、骨がボロボロになってしまうことがあります。なんと、この骨破壊は私たちの体がもともと持っている細胞の機能によって引き起こされます。骨の中には、骨を作る骨芽細胞(形成係)と壊す破骨細胞(破壊係)がいます。ふつうの骨ではバランス良く再生と破壊が繰り返されていますが、カンジダに感染した状態では免疫細胞の炎症が過剰となって破壊係が優位になってしまい、骨がこわれてゆきます。

 私たちの研究から、この破壊係の暴走を痛み神経が抑えていることがわかりました。カンジダ感染症では、カンジダの菌体から様々な痛み物質が放出されます。これによって私たちは痛みを感じてしまいますが、痛み物質によって直接刺激された神経は、骨のところでTRPV1/TRPA1というイオンチャネルの活性化を介してCGRPというタンパク質を放出しました。遺伝子改変マウスを使った詳細な研究をおこなった結果、放出されたCGRPは、免疫細胞のなかにあるJdp2という転写因子を活性化することで炎症をおさえると同時に、骨の破壊係に作用してその落ち着きを取り戻してくれることがわかりました。つまり、カンジダが暴れている時に痛いからといって神経の活動を抑えてしまうと、炎症が激しくおこると同時に骨がスカスカになってしまうのです。

 興味深いことに、痛みの神経を細菌由来の痛み成分で刺激すると、カンジダ由来の痛み成分で刺激したときと比べてとても少ない量のCGRPを放出しました。これらの結果は、われわれの進化の過程において痛みの神経が細菌感染よりもむしろ真菌感染に特化した骨炎症予防機構を発達させてきたことを示唆しています。

 これらの知見は、わたしたちの痛みに対する概念を拡張するのみならず、痛み神経による生体防御機構にインスパイアされた新しい抗炎症剤や骨保護制剤の開発につながるものです。
 

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共同研究者情報

研究者名:丸山健太 特任助教
研究機関名:大阪大学免疫学フロンティア研究センター
研究者の所属講座名、部門名:自然免疫学
 

科研費や補助金、助成金などの情報


科研費(若手A、挑戦的萌芽研究)、大阪大学産学連携プロジェクトMEET、武田科学財団、千里ライフサイエンス振興財団 岸本基金研究助成、国際科学技術財団、持田記念医学薬学振興財団、生理学研究所 共同利用研究、AMED 革新的医療技術創出拠点プロジェクト(シーズA)、日本リウマチ財団
 

 

リリース元

Title: Nociceptors Boost the Resolution of Fungal Osteoinflammation via the TRP Channel-CGRP-Jdp2 Axis

Authors: Kenta Maruyama, Yasunori Takayama, Takeshi Kondo, Ken-ichi Ishibashi, Bikash Ranjan Sahoo, Hisashi Kanemaru, Yutaro Kumagai, Mikaël M. Martino, Hiroki Tanaka, Naohito Ohno, Yoichiro Iwakura, Naoki Takemura, Makoto Tominaga, Shizuo Akira,

Journal: Cell Reports

Issue: 13

Date: Jun 27, 2017

URL (abstract): https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28658621

DOI: 10.1016/j.celrep.2017.06.002

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