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ヒトデの幼生は暖かい温度を好む〜温度を感じて選択する仕組み〜

2018年02月26日 研究報告

ヒトデなどの海産無脊椎動物の多くは成体とは形が大きく異なる幼生の時期があります。幼生は遊泳能力が低く、海流に運ばれることにより産み落とされた場所から広く分散していきます。「海流によって受動的に移動するヒトデの幼生は環境の刺激に対して能動的に応答できるのだろうか」という疑問を出発点にして、イトマキヒトデの幼生の温度に対する遊泳行動とそのメカニズムを調べました。

 まずは、ヒトデ幼生がどの様な温度を好むのかを調べるために、幅10cmの容器の両端の温度を変えることで温度の勾配を作り、幼生を遊泳させる実験を行いました。幾つかの温度勾配の条件を試したところ(15~20℃、20~25℃、 25~30℃)、どの条件の場合もヒトデ幼生は暖かい温度の方に移動しました。更に興味深いことに、高温側を36℃に設定した場合にも熱い方に移動して死んでしまいました。つまり、ヒトデ幼生は暖かい温度を好み、生存限界を超える高温にすら誘引されてしまうことが分かりました。

 次に、ヒトデ幼生がどの様なメカニズムにより環境の温度を感じているのかを調べました。多くの動物種で暖かい(または高温)の受容に関わるTRPA1(トリップ・エイワン)の特性を調べたところ、ヒトデのTRPA1は暖かい温度を受容することが分かりました。更に、TRPA1の働きを抑えたヒトデ幼生は暖かい温度に対する誘因性が低下することが示されました。これらの実験により、幼生はTRPA1を介して温度を感じて暖かいところへ移動することが明らかになりました。

 今回の研究により、自然条件では海流まかせという一見、受動的な移動をするヒトデ幼生にも、温度を感じて能動的に遊泳する能力が備わっていることが示されました。また、TRPA1は哺乳類から昆虫まで多くの動物種で逃避行動に関わりますが、今回の発見により同じ種類の温度センサーでも、ヒトデの場合のように、動物種によっては誘引という正反対の行動応答に使われることが明らかになりました。温度情報の入力経路は動物種間で共通でも神経回路での情報処理の違いにより最終的な行動の出力が異なるようになったと考えられます。
 

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共同研究者情報

研究者名:濱中 玄
研究機関名:お茶の水女子大学

研究者名:颯田葉子、五條堀淳
研究機関名:総合研究大学院大学

研究者名:金子洋之、河合成道、古川亮平
研究機関名:慶應義塾大学

 

科研費・補助金、助成金情報

総合研究大学院大学 学融合推進センター 戦略的共同研究I

リリース元

Title:

Characterization of TRPA channels in the starfish Patiria pectinifera: involvement of thermally activated TRPA1 in thermotaxis in marine planktonic larvae

 

Authors:

Shigeru Saito, Gen Hamanaka, Narudo Kawai, Ryohei Furukawa, Jun Gojobori, Makoto Tominaga, Hiroyuki Kaneko & Yoko Satta

 

Journal: Scientific Reports

Issue: 7 Article number: 2173

Date: 19 May 2017

URL (abstract): https://www.nature.com/articles/s41598-017-02171-8

DOI: 10.1038/s41598-017-02171-8

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