
低浸透圧による細胞の膨張はTRPA1を活性化する
2018年02月26日
研究報告
水が眼や鼻の奥に入った時に、ヒトは痛みを感じます。この痛みの原因は水が細胞液や体液よりも浸透圧が低い、すなわち中に溶け込んでいる成分の濃度が薄いために発生するということが知られています。これは、細胞膜(細胞を包む膜)が半透膜の性質を持つために発生するものです。半透膜とは、水は透過するが塩分などは透過しない膜で、半透膜の性質を持つ細胞膜につつまれた細胞は、水(低浸透圧液)にさらされると、“細胞の中にある液”と“水”との成分の濃度の差が大きいせいで、薄い側の“水”から水分が細胞の中に移動します。その結果、細胞が膨張し、ひどい場合には破裂してしまいます。それらを避けるために、人の身体は皮膚などの防御機関で守られていますが、鼻腔や眼の粘膜などの一部では、低浸透圧液に細胞が接触した際に、細胞から脳に情報が伝達され、それが “痛み”となって感じられます。
今回私たちは、様々な痛みに反応する受容体であるTRPA1の活性が低浸透圧条件下において増幅することを明らかにし、低浸透圧液がTRPA1の活性に直接的に関与することを見出しました。また、低浸透圧液によって細胞が膨張する度合いとTRPA1の活性には一定の相関関係があり、物理的刺激のひとつである細胞の膨張が低浸透圧条件下でのTRPA1の活性に寄与することも見出しました。
この発見は、長らく不明であったTRPA1の物理刺激受容体としての役割を示すものでもあります。今回の研究成果で、鼻腔や眼の中で起きる低浸透圧液による痛みに対し、TRPA1が関与していることを明らかにしたことにより、化粧品や医薬品の開発においてTRPA1を用いた眼刺激感の評価が可能となりました。
共同研究者情報
藤田郁尚 大阪大学大学院 薬学研究科
内田邦敏 福岡歯科大学
高石雅之 株式会社マンダム
科研費・補助金、助成金情報
This work was supported by grants from the Japanese Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (#15H02501).
リリース元
Title: Hypotonicity-induced cell swelling activates TRPA1.
Authors: Fumitaka Fujita & Kunitoshi Uchida & Yasunori Takayama & Yoshiro Suzuki & Masayuki Takaishi & Makoto Tominaga
Journal: Journal of Physiological Science
Issue: in press
Date: Received: 23 January 2017 /Accepted: 19 May 2017
URL (abstract): https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28623463
DOI: 10.1007/s12576-017-0545-9