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ミラーイメージペインの発症の仕組みを解明

2018年05月10日 研究報告

 通常、痛みは身体に起きている危険を知らせる重要な感覚です。一方で、身体が危険な状態になくても持続して感じる痛みがあります。これは慢性疼痛と呼ばれる疾患で、治療法の確立には至っていません。慢性疼痛は末梢神経が傷つく等により中枢神経系の機能が変化し引き起されると考えられています。また、一部の慢性疼痛患者では、損傷していない方の四肢にも慢性疼痛(ミラーイメージペイン)を発症することが報告されています。しかし、これまでミラーイメージペインの発症メカニズムはほとんど分かっていませんでした。

 最近、私たちのグループでは感覚の情報処理に重要な脳領域である一次体性感覚野(S1)で1)シナプスの形成や消失が増加(神経回路が変化)し慢性疼痛を起こすこと、2)この神経回路変化は脳の主要な細胞のひとつであるアストロサイトによって引起こされていることも明らかにしました。そこで、私たちは、ミラーイメージペインもS1のアストロサイトにより神経回路の劇的な変化が生じることで発症するのではないかと考えました。このこと調べるために、私たちは2光子顕微鏡という生きたマウスの脳細胞の活動や構造を観察できる特殊な顕微鏡を使って、末梢神経を傷害したマウスの脳神経細胞とアストロサイトの活動を観察しました。

 結果、損傷後、興奮性神経細胞の活動を抑制する抑制性神経細胞とアストロサイト両方の活動が増えていました。通常、末梢の神経を損傷したマウスは健常な足(末梢神経損傷された足と反対の足)において痛みを感じることはありませんが、このマウスのS1抑制性神経細胞の機能を抑制し、興奮性神経細胞活動を亢進させると、S1で神経回路が変化することと健常な足で慢性疼痛(ミラーイメージペイン)が発症することを見出しました。また、ミラーイメージペインを起こすマウスのS1におけるアストロサイトの過剰な活動を薬で抑えると、神経回路の変化とミラーイメージペインの発症が抑えられました。これらの結果から、S1でアストロサイトと興奮性神経細胞両方の活動が増えることで新たな神経回路がつくられ、ミラーイメージペインを発症することがわかりました。

 本研究は、ミラーイメージペインだけでなく慢性疼痛の治療に対して、脳のアストロサイトが有用なターゲットとなりうることを示唆しており、慢性疼痛の治療法確立に役立つ可能性があります。

 

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共同研究情報

研究者名:Sun Kwang Kim
研究機関名:Kyung Hee University College of Korean Medicine
研究者の所属講座名、部門名:Department of Physiology

研究者名:和氣弘明
研究機関名:神戸大学大学院医学研究科
研究者の所属講座名、部門名:生理学・細胞生物学講座 システム生理学分野

研究者名:Andrew J Moorhouse
研究機関名:School of Medical Sciences, The University of New South
研究者の所属講座名、部門名:Membrane and Cellular Biophysics

研究者名:石橋 仁
研究機関名:北里大学 医療衛生学部
研究者の所属講座名、部門名:生理学教室
 

科研費・補助金、助成金情報

Core Research for Evolutional Science and Technology (CREST) grant
基盤研究(A) (22240042 to J. Nabekura),
若手研究(B) (15K21604 to T. Ishikawa)
若手研究(B) (15K21603 to K. Eto),
基盤研究(C) (17K09051 to K. Eto),
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas-Resource and technical support platforms for promoting research 'Advanced Bioimaging Support (JP16H06280).
 

リリース元

Title: Cortical astrocytes prime the induction of spine plasticity and mirror image pain.

Authors: Tatsuya Ishikawa, Kei Eto, Sun Kwang Kim, Hiroaki Wake, Ikuko Takeda, Hiroshi Horiuchi, Andrew J Moorhouse, Hitoshi Ishibashi, Junichi Nabekura

Journal:Pain

Issue:
Date:
URL (abstract):
DOI: 10.1097/j.pain.0000000000001248.

 

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