
含水ゲル微粒子存在下で作製した合成ヒドロゲル微粒子の形状を低温電子顕微鏡トモグラフィーで観察
合成ヒドロゲル微粒子は、水で大きく膨らむ寒天のような柔らかい素材ですが、もとは直径が1µm(1 mmの1000分の1)以下の微粒子からなります。また、ゲル微粒子は外部環境に応じて特徴を大きく変化させることが可能で、例えば、温度が変わると、微粒子の大きさが2倍程度変化します。合成ヒドロゲル微粒子は、ほとんど水から構成されている (約90%以上)ため、近年、微粒子内部に薬剤やタンパク質、色素などを閉じ込め、意図する時に意図する場所で、微粒子外へと放出するドラッグデリバリー担体としての応用が期待されています。信州大学の鈴木准教授の研究グループは、独自の方法で様々な形状や機能を持った合成ゲル微粒子を作製し、その応用について研究を進めています。
合成ヒドロゲル微粒子は通常、溶液の中に分散して存在しています。さまざまな方法で作製されたこの合成ヒドロゲル微粒子の状態を観察するためには、光学顕微鏡よりも解像度の高い電子顕微鏡が必要ですが、試料を真空中に置かないといけないため、溶液中に存在する合成ヒドロゲル微粒子の形状を直接観察することはできません。そこで本研究では、生理研にある低温電子顕微鏡を用いて、合成ヒドロゲル微粒子を溶液状態のまま急速凍結して観察しました。さらに、トモグラフィーという方法を用いてその立体形状を再構築しました。その結果、合成ヒドロゲル微粒子を形作るスチレンが、スチレンの濃度が高いほど、表面を負に帯電させた含水ゲル微粒子の内部で均一に大きく重合していることがわかりました(図)。このことから、部材となるスチレンが含水ゲル微粒子内に取り込まれて重合していく様子が明らかになりました。
本結果は、ドラッグデリバリー担体などとしてヒドロゲル微粒子をデザインするために必要な正確な溶液中の構造の情報を与えました。
図 合成ヒドロゲル微粒子の低温電子顕微鏡像とトモグラフィーによる三次元再構築像(添図)。合成ヒドロゲル微粒子(SF5-SX)は含有ゲル微粒子(SF5)存在下でスチレンを反応させて作製された。Xはスチレンの濃度(それぞれ50mM, 100mM, 200mM)。
共同研究者情報
渡邊拓巳、鈴木大介(信州大学)
科研費・補助金、助成金情報
科研費(新学術領域提案型、先端バイオイメージング支援プラットフォーム)
リリース元
Title: Seeded Emulsion Polymerization of Styrene in the Presence of Water-Swollen Hydrogel Microspheres
Authors: Takumi Watanabe, Chihong Song, Kazuyoshi Murata, Takuma Kureha, and Daisuke Suzuki
Journal: Langmuir
Issue: 34(29), 8571
Date: 2018.6.29 publish & online
URL (abstract): https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.langmuir.8b01047
doi: 10.1021/acs.langmuir.8b01047