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肥満・糖尿病の創薬ターゲットAMPキナーゼが骨格筋細胞のミトコンドリア、エネルギー代謝関連遺伝子に及ぼす調節作用を解明

2018年11月21日 研究報告

 今日、糖尿病は世界中で問題となっています。最近の研究によって、老化や運動不足によって骨格筋が萎縮し(sarcopenia)、その結果、糖や脂質をエネルギー源として利用できなくなることが、糖尿病発症の原因の一つと考えられています。AMPキナーゼ(AMP-activated protein kinase)は、糖、脂質、タンパク質代謝を調節すると共に、エネルギー産生に重要なミトコンドリアの合成やエネルギー代謝調節遺伝子の発現を調節します。また、AMPキナーゼは、レプチン、アディポネクチンなど、ホルモンによる摂食・代謝、炭水化物嗜好性の調節に必須です。さらにAMPキナーゼは、抗糖尿病薬として世界中で使用されるメトホルミンの抗糖尿病作用にも関与します。このことからAMPキナーゼは、肥満、糖尿病治療のための創薬ターゲットとして注目されています。

  AMPキナーゼは、α、β、γサブユニットの三量体です。αサブユニットは酵素活性に必要な触媒部位を持ち、α1とα2があります。α1とα2の発現は、各組織、細胞、発達過程によって異なるため、α1とα2サブユニットを持つAMPK(AMPKα1とAMPKα2)は、各々異なる生理的作用を持つと考えられます。しかし、その作用の違いはよく分かっていませんでした。

  本研究では、AMPKα1とAMPKα2による骨格筋細胞での働きを明らかにすることを目的に、骨格筋の培養細胞株C2C12細胞に、α1、α2サブユニット或いはその両方を抑制するshRNA(short hairpin RNA)を発現させ、遺伝子発現、代謝、細胞の大きさに及ぼす効果を調べました。その結果、AMPKα2は、PGC (peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator)-1α1、PGC-1α4、筋肉クレアチンキナーゼなど、ミトコンドリア合成、エネルギー産生、骨格筋細胞の肥大を促進する遺伝子発現を促進することを見出しました。その結果、ミトコンドリア量、細胞の大きさも増加していました。さらに、AMPKα2が活性化すると、AMPKα2の一部が核移行することによって、ミトコンドリア合成に重要な転写調節因子PGC-1α1の発現を高めることを見出しました。

 AMPキナーゼは、糖尿病や肥満の創薬ターゲットとして注目されています。しかし、その機能は極めて多様です。それ故、全てのAMPキナーゼを活性化すると、予期しない副作用が起こる可能性があります。本研究によって、AMPKα2が、ミトコンドリア合成、エネルギー産生の調節遺伝子、骨格筋細胞の大きさを選択的に促進することが明らかになりました。このことから、AMPKα2は、肥満・糖尿病治療薬を開発するための、より選択的な標的分子となる可能性があります。

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AMPキナーゼが骨格筋細胞のミトコンドリア、エネルギー代謝関連遺伝子に及ぼす調節作用
Copylight: Minokoshi and NIPS

共同利用研究者情報

研究者名:岡本士毅
所属:生理学研究所
所属講座名、部門名:生体機能調節研究領域 生殖・内分泌系発達機構研究部門
現所属
研究機関名:琉球大学
研究者の所属講座名、部門名:大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)

研究者名:Nur Farehan Asgar
研究機関名:生理学研究所
所属講座名、部門名:生体機能調節研究領域 生殖・内分泌系発達機構研究部門

研究者名:横田繁史
研究機関名:生理学研究所
所属講座名、部門名:生体機能調節研究領域 生殖・内分泌系発達機構研究部門
 

科研費・補助金、助成金情報

日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究B、萌芽研究(代表研究者:箕越靖彦)、日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究C(代表研究者:岡本士毅)

リリース元

Title: Role of the α2 subunit of AMP-activated protein kinase and its nuclear localization in mitochondria and energy metabolism-related gene expressions in C2C12 cells.
Authors: Shiki Okamoto, Nur Farehan Asgar, Shigefumi Yokota, Kumiko Saito, Yasuhiko Minokoshi
Journal: Metabolism
Issue: 90(1): 52-68
Date: Oct 22, 2018 Published Online
URL (abstract): https://www.metabolismjournal.com/article/S0026-0495(18)30213-0/fulltext
DOI: 10.1016/j.metabol.2018.10.003.
 

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