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ニッケルがガンを引き起こすメカニズムを解明

2018年12月26日 研究報告

 ヒトの主要な死亡原因の一つにガンが挙げられますが、その発症メカニズムは様々です。その1つとして、仕事などでニッケルという金属に長い間晒されると、ガンを高い確率で発症することが知られています。しかし、そのメカニズムはよくわかっていませんでした。本研究では、ニッケルがガンを引き起こす分子メカニズムの一つを解明しました。
 生物は、ガンを抑制するタンパク質をいくつも持っています。その1つとしてp53が知られています。p53は亜鉛金属と結合して、4つの分子が会合(4量体を形成)し、紫外線や発ガン性物質などによって損傷を受けた遺伝子の修復に関与します。本研究では、このタンパク質が微量のニッケルに晒されると、亜鉛と間違えてニッケルを取り込み、会合できなくなることがわかりました。共同研究では、その様子を直接電子顕微鏡で捉えることに成功しました(図)。通常4量体を形成するp53が、ニッケルも存在下では4量体を取ることができずに単量体のままです。p53の4量体は、GADD45Aという損傷した遺伝子を切り取る役割をするタンパク質の遺伝子発現を促すことが知られていますが、ニッケルの結合によってそれができなくなるため、細胞がガンを引き起こしやすくなることが示されました。さらに、ニッケル自身もこのGADD45Aタンパク質に直接結合して、別のタンパク質と作る会合体の形成を阻害することも明らかとなりました。
 本成果は、ニッケルがガンを引き起こす分子機構を明らかにしただけでなく、その予防法や治療法の開発において重要な情報を提供しました。

 

図 P53のネガティブ染色電顕像。右)亜鉛中、左)ニッケル中のP53

20181226murata-1.jpg

 

共同研究者情報

Young Rok Seo(Dongguk University)
村田 和義(生理学研究所)

科研費・補助金、助成金情報

生理研計画共同研究

リリース元

Title: A molecular mechanism of nickel (II): reduction of nucleotide excision repair activity by structural and functional disruption of p53
Authors: Yeo Jin Kim, Young Ju Lee, Hyo Jeong Kim, Hyun Soo Kim, Mi-Sun Kang, Sung-Keun Lee, Moo Kyun Park, Kazuyoshi Murata, Hye Lim Kim, Young Rok Seo
Journal: Carcinogenesis
Issue: 39(9): 1157–1164
Date: 2018.6.19 published
URL (abstract): https://academic.oup.com/carcin/article/39/9/1157/5025442
doi.org/10.1093/carcin/bgy070

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