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アイコンタクトが二者を繋ぐメカニズムの神経基盤

2019年03月05日 研究報告

  他者と視線を合わせみつめあうという行為は,「私はあなたに興味がある」という情報を二者で共有する役割を持ち,ほぼ全ての対面コミュニケーションの基礎となっています.その本質は,二人が互いの目に注意を向け,リアルタイムで相手の目の情報をお互いに取り入れあうことにあります.つまり,テレビ画面上からこちらを見ているアナウンサーの目を見るような,一方通行の情報伝達しかおこらない行為とは,本質的に異なるものです.しかしながらこれまでの研究では,主に実験装置の制限により,お互いにリアルタイムで情報を交換することができるみつめあいに,どのような行動的または脳活動的な特徴があるかは明らかになっていませんでした.本研究では,コミュニケーション中の二者から同時に脳活動を記録できるハイパースキャニングfMRIというシステム(図参照)を用いて,リアルタイムでのみつめあいに関連した脳領域を検出することを試みました.実験参加者は,同性で初対面のパートナーとペアになり,実験に参加しました.私たちは参加者に,「パートナーの顔が画面上に見えるので,相手に注意を向け,相手のことを考えながらみつめあってください」と教示をしました.ここで,参加者が画面上で見るパートナーの顔映像として,私たちは2種類のものを準備しました. 一つ目はリアルタイムでのパートナーの顔の状態を反映したLIVE映像,もう一つは一時的に録画された数十秒前の顔の状態を反映したREPLAY映像です(図参照).これらの映像を見ているときの行動および脳活動を記録し,解析をおこないました.LIVE映像とREPLAY映像の二種類があることは,参加者には事前に伝えられておらず,また二種類の映像の存在に気が付くこともありませんでした.このことから,もしLIVE映像とREPLAY映像をみている条件の間で,行動特性や脳活動の変動を発見することができれば,それは相互に情報を交換するというみつめあいの本質と関連したものであるはずです.
まずみつめあいに関連した行動特性として,視覚的注意の切れ目を表象するとされる瞬きに注目したところ,LIVE映像条件で有意に,瞬きのタイミングが相手のそれから強く影響されていることが明らかになりました.次いで脳活動を検討したところ,小脳および前部帯状回がLIVE映像を見ている時に特に強い活動を示すことが明らかになりました.また前部帯状回の活動は,LIVE映像をみているときにのみ,右島皮質へと影響を与えていることも明らかになりました.前部帯状回および右島皮質は,自分と同じものとして他者を理解する辺縁系ミラーニューロンの一部だと言われています.
本研究の結果は,ヒトはみつめあいという状態において,互いに自動的に相手と行動を揃える傾向があり,それにより相手に対する注意の状態を揃え,来るべきコミュニケーションへの準備をしている可能性があること,加えてその神経基盤は,他者理解に関連した小脳-大脳ットワークで担われていることを示唆しています.この研究を発展させていくことで,コミュニケーションにおける他者理解や共感の神経基盤が,より明らかになることが期待されます.

本研究については,SfNのmedia promotionに選ばれ,幾つかの海外サイトでニュース配信をされています.

<用語>
fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging(機能的磁気共鳴画像法)の略称.局所的な神経活動に伴う血流変化を反映するとされるBOLD信号を測定する脳機能イメージング手法.
 
 
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科研費や補助金、助成金などの情報

科研費,脳プロ,中山隼雄科学技術文化財団研究助成
 

リリース元

Title: What makes eye contact special? Neural substrates of on-line mutual eye-gaze: a hyperscanning fMRI study
Authors: Takahiko Koike, Motofumi Sumiya, Eri Nakagawa, Shuntaro Okazaki and Norihiro Sadato
Journal: eNeuro
Issue: 6(1)
Date: 25 February 2019,
URL (abstract): http://www.eneuro.org/content/6/1/ENEURO.0284-18.2019
DOI: https://doi.org/10.1523/ENEURO.0284-18.2019
 

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