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光の色による光合成アンテナの再構築機構をシアノバクテリアで発見

2019年05月14日 研究報告

光合成は、太陽光を使って炭水化物などの有機物を作り出す化学反応で、地球上の生命の生存を支える重要な反応の一つです。シアノバクテリアは光合成を行う細菌で、世界中のあらゆる環境に生息しています。シアノバクテリアは太陽光を集めるために「フィコビリソーム(PBS)」と呼ばれる巨大なアンテナタンパク質複合体を持っています。PBSには、光の色を吸収する主なタンパク質として、赤色光を吸収するフィコシアニン(PC)、緑色光を吸収するフィコエリスリン(PE)、黄緑色光を吸収するフィコエリスロシアニン(PEC)、の3種類のいずれかを含みます。シアノバクテリアの中には、PCとPEを光の色によって調節し、光合成の効率を高めるタイプがいることが知られています。ところが、PECの量を光の色によって調節するタイプは、これまでに報告例がありませんでした。

 今回、豊橋技術科学大学の広瀬侑博士を中心とする共同研究チームは、光の色によってPBSの構築を調節する「光スイッチ遺伝子」が、PECを持つシアノバクテリアに存在することを初めて発見しました。研究チームは、データベースに登録されたシアノバクテリアのゲノム情報を探索し、PECと光スイッチの遺伝子を併せ持つシアノバクテリアの一群を特定し、これらの種ではPECの量が光の色によって大きく調節されることを実験的に証明しました。生理研では、この光のスイッチによって誘導されたPBSの構造を電子顕微鏡で詳細に観察し、緑色光の下では、PECとPCからなる4つのディスクが扇状に並んだ大きなPBS(G1)と、それらが棒状に並んだPBS(G2)が、赤色光の下ではPCからなる3つのディスクが扇状に並んだPBS(R1)のPBSが形成されることを突き止めました(図)。

 さらに研究チームは、約450株のシアノバクテリアのゲノム情報を詳細に解析し、このPEC調節型の光スイッチは約21億年以前に誕生し、その後、シアノバクテリアどうしの遺伝子の交換(水平伝播)によって広まって行ったことも明らかにしました。光スイッチは、細胞どうしが数珠のようにつながったシアノバクテリアで多く見られることから、光合成に用いる光の色を細胞間で変え、光の奪い合いによる競争を避けているのではないかと考えられました。

 PCやPEは天然由来の色素としてアイスクリーム等の食品着色料としても多く利用されています。本研究の成果は、PECの大量生産やそれを用いた新たな工業材料の開発への応用が期待できます。また、光合成の改変による光エネルギー変化効率の向上や、光照射によって生物の遺伝子の働きを制御する研究への応用も期待されます。

 

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図 PECの光スイッチで誘導されたPBSの負染色電子顕微鏡像とその模式図。

 

共同研究情報

広瀬侑(豊橋技術科学大学)
ソン・チホン、村田和義(生理学研究所)

科研費や補助金、助成金などの情報

科研費、生理研共同研究、生命創成探求センターバイオネクストプロジェクト

リリース元

Title: Diverse Chromatic Acclimation Processes Regulating Phycoerythrocyanin and Rod-Shaped Phycobilisome in Cyanobacteria
Authors: Yuu Hirose, Song Chihong, Mai Watanabe, Chinatsu Yonekawa, Kazuyoshi Murata, Masahiko Ikeuchi and Toshihiko Eki
Journal: Molecular Plant
Issue: 12(5), 715-725
Date: 2019 Feb 26 Online published
URL: https://doi.org/10.1016/j.molp.2019.02.010
DOI: 10.1016/j.molp.2019.02.010

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