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緑藻類クラミドモナスの巨大光合成膜タンパク質複合体の構造をクライオ電子顕微鏡で解析

2019年08月27日 研究報告

植物などに見られる光合成は、地球上で最も効率よく光エネルギーを利用できるシステムです。光合成生物は、光エネルギーを使って、水と二酸化炭素から炭水化物を合成します。その初期に、光エネルギーを利用可能な化学エネルギーに変換する過程は光化学反応と呼ばれ、葉緑体内のチラコイド膜にあるいくつかの膜タンパク質複合体で行われます。これには光を受け取る装置として、光化学系I(PSI)と光化学系II(PSII)とがあり、この2つが環境の変化に応じて連携し、最も効率よく光を集めることができるようになっています。しかし、これらは生物の種類や環境によって多様な構造と形態を示します。本研究では、生物種による光合成装置の構造や形態の違いを調べることで、光合成の詳細な仕組みを明らかにしたいと考えています。

今回、基礎生物学研究所の皆川純教授を中心とする研究チームは、新しく開発された界面活性剤Non-ionic amphipolを用いることによって、現在報告されている中で最も大きなクラミドモナスPSIIの膜タンパク質超複合体を安定して精製することに成功しました。生理研では、この試料を急速凍結して、クライオ電子顕微鏡を用いて解析を行い、5.6 Å分解能でその構造を明らかにしました(図1)。結果、中心のPSIIコア複合体二量体を取り囲む光アンテナタンパク質複合体LHCII三量体が高等植物の4個と比べて6個と多いこと、またそれらのコア複合体との結合距離も、高等植物のものよりも長いことがわかりました。このことから、光のアンテナであるLHCIIから光化学反応の中心であるPSIIコアまでの光エネルギーの伝達が、高等植物とは異なる経路を取ることが示唆されました。また、これまで高等植物には知られていなかった膜を貫通するサブユニットもPSIIコアの周辺から発見できたことから、このPSII複合体が、系統上シアノバクテリアのものと高等植物のものの中間に位置することも明らかになりました。

本成果は、水中を自力で移動可能な緑藻であるクラミドモナスの特徴的な光化学反応の仕組みを明らかにしただけでなく、この知見は環境変化が大きな場所でのより高効率なクリーンエネルギーの創出に繋げられると期待します。

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共同研究者情報

Raymond N. Burton-Smith、渡邉 顕正、得津 隆太郎、皆川 純(基生研)

致宖、村田 和義(生理研)

科研費や補助金、助成金などの情報

科研費(JSPS)、生理研共同研究

リリース元

Title: Structural determination of the large photosystem II–light harvesting complex II supercomplex of Chlamydomonas reinhardtii using non-ionic amphipol
Authors: Raymond N Burton-Smith, Akimasa Watanabe, Ryutaro Tokutsu, Chihong Song, Kazuyoshi Murata and Jun Minagawa
Journal: Journal of Biological Chemistry
Issue: pii: jbc.RA119.009341 [Epub ahead of print]
Date: Aug 15
URL (abstract): http://www.jbc.org/content/early/2019/08/15/jbc.RA119.009341.abstract
DOI: 10.1074/jbc.RA119.009341

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