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小型甲殻類カイアシの摂食器官の詳細な構造をSBF-SEMを用いて解析

2019年09月04日 研究報告

カイアシは、地球上に幅広く棲息する小型甲殻類で、現在、11目約12,000種が確認されています。身近には、ため池などで見られる「ケンミジンコ」として親しまれています。その中でも遠洋に棲むカイアシは、単純な浮遊粒子を摂食する種類から、毒針を持った肉食の種類まで、多様な摂食行動を示します。この摂食適応は、進化の上で最も多様化を促進する要因の一つでありますが、これには多くの内部器官の一致、統合した変更が必要になります。私たちは、この多様な遠洋性カイアシ類の摂食適応と内部器官の進化の様子を最先端の画像再生装置を用いて形態学的に調べ、その環境適応と統合的な個体進化の関係を明らかにしたいと考えています。

本研究では、遠洋でサンプリングされたカイアシ類の中から、異なる摂食行動を示す4つのカイアシ類を調べました。1つは最も単純な粒子摂食種(Disseta palumbii: DP)、もう1つは毒の出る牙を持つ肉食種(Heterorhabdus subspinifrons: HS)、そして、2つの中間分類種(Mesorhabdus gracilis: MGおよびHeterostylites longicornis: HL)です。その摂食器官の構成要素(筋肉、腺、腺の開口部)の詳細な形態比較の結果、全種類において毒腺および筋肉の相同性は保たれているにもかかわらず、HSのみにおいて毒腺の特殊化に関連した特異な筋肉が発達していること、さらに他の種には見られない毒搾出に特化した筋肉の配置が見られることが明らかになりました。そして、HSにおける毒腺の機能的特殊性が示されました(図1)。本研究を通して、下顎の歯の形、筋肉と腺の形と位置の微妙な変化が、異形種の多様化を加速し、新しく刺すような給餌様式の進化を促進したことが示唆されました。

本成果は、主要な革新的進化がどのような形態変化により促進されるかを示しただけでなく、最終的にそれらを引き起こした進化の順序と統合が重要であることを示しました。また、ここで用いられたSBF-SEMを含む最新の画像再生技術は、超微形態進化を明らかにする上で非常に有効な手段であることも示されました。今後、このような手法を用いてさらに新しい個体進化の詳細が明らかになると期待されます。
 

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図1 Heterorhabdus subspinifronsHS)の上唇と下唇の三次元構造。
Esophagus:食道、Mandible:下顎、Labral grand:Muscle:筋肉

共同研究者情報

梶 智就、A. Richard Palmer(Alberta Univ.)
野中 茂紀(基生研)
宋 致宖、村田 和義(生理研)
 

科研費や補助金、助成金などの情報

科研費、生理研共同研究、基生研共同研究

リリース元

Title: Evolutionary transformation of mouthparts from particle-feeding to piercing carnivory in Viper copepods: Review and 3D analyses of a key innovation using advanced imaging techniques
Authors: Tomonari Kaji, Chihong Song, Kazuyoshi Murata, Shigenori Nonaka, Kota Ogawa, Yusuke Kondo, Susumu Ohtsuka, A. Richard Palmer
Journal: Frontiers in Zoology
Issue: 16:35
Date: Aug 22
URL (abstract):
https://frontiersinzoology.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12983-019-0308-y
DOI: 10.1186/s12983-019-0308-y
 

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