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腸管を正常に保つ上皮バリアのはたらき
-ショウジョウバエをモデルとした研究から -

2019年10月02日 研究報告

概要

 私たちの腸管は、腸内の様々な物質や微生物が簡単に体の中に侵入することを防ぐバリアとしてはたらきながら選択的に栄養を取り込みます。この腸管のバリア機能は、腸の管の表面を覆う「上皮」、すなわち細胞が敷石のようにならんで形成されたシート構造によって担われています。腸管のバリア機能が弱まると困ったことになりそうですが、実際には何が起こるのでしょうか。この因果関係を明らかにできれば、腸管のバリア機能の異常に起因する病態を理解する重要な手がかりになると思われます。しかし、腸管において、上皮を大きく傷つけることなくバリア機能だけを低下させる実験は難しく、詳しいことはわかっていません。
 私たちは、モデル動物であるショウジョウバエを使ってこの問題を解明しようとしています。これまでに、腸管上皮の細胞と細胞のすきまの漏れを防ぐ細胞間結合『セプテートジャンクション』について研究をすすめ、セプテートジャンクションをつくるタンパク質群(Ssk, Mesh, Tsp2A)を見つけました。そして、これらのタンパク質の発現を操作することにより、腸管バリア機能を人為的に低下させる実験系を立ち上げることに成功しました。これらのタンパク質を失ったショウジョウバエは、腸管の内容物が漏れてしまい、卵から幼虫に孵化したあとすぐに死んでしまいます。今回、私たちは、ショウジョウバエが成虫になってから、腸管上皮でセプテートジャンクションのタンパク質を失わせる実験を行いました。幼虫と違って、成虫のショウジョウバエの腸管は、ヒトと同じように幹細胞から上皮細胞が新しく生み出されてリニューアルされています。セプテートジャンクションのタンパク質を失ったショウジョウバエは、期待通り腸管上皮のバリア機能が低下し、寿命が極端に短くなりました。たいへん面白いことに、その腸管では幹細胞が盛んに分裂し、異常な形をした上皮細胞で腸の中が埋まってしまうことが分かりました(図参照)。この腸管の異常には、IL-6と似た炎症性サイトカインがかかわっていました。このようにショウジョウバエの腸管では、上皮のバリア機能が幹細胞の増殖と上皮細胞への分化をコントロールして腸管を正常に保っていることが明らかになりました。
 腸管バリア機能の低下と関連が深いヒトの病気に炎症性腸疾患があります。この疾患は、過剰な炎症と上皮の傷害によるバリア機能の破綻が相互に作用しあって症状が悪化すると考えられていますが、その原因はまだよくわかっていません。ショウジョウバエとヒトは一見大きく違うように思えますが、からだの基本的な仕組みには共通点が多くみられます。本研究のようなショウジョウバエを用いた研究をさらに進めることによって、ヒトの炎症性腸疾患を理解するヒントが得られないかと期待しています。
 本研究成果はJournal of Cell Science誌に掲載され、注目論文として同号の”Research Highlights”欄で紹介されました。

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科研費や補助金、助成金などの情報

科研費補助金 基盤研究C(代表研究者:泉 裕士)、 武田科学振興財団生命科学研究助成 (代表研究者:古瀬幹夫)

論文情報

Title: Septate junctions regulate gut homeostasis through regulation of stem cell proliferation and enterocyte behavior in Drosophila

Authors: Yasushi Izumi, Kyoko Furuse and Mikio Furuse
Journal: Journal of Cell Science
Issue: 132 (18)
Date: 26 September 2019
URL (abstract): https://jcs.biologists.org/content/132/18/jcs232108
DOI: 10.1242/jcs.232108
 

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