
多層型ナノコンポジットゲル微粒子の作製に成功。クライオ電顕トモグラフィーでその様子を直接観察
ゲル微粒子は、水に可溶な直径数ミクロン(1 mmの1000分の1)程度の高分子からなる微粒子です。近年、ナノテクノロジーの発展により様々な機能が付加された人工的なゲル微粒子が開発され、洗剤や酵素、薬物の保護カプセルとして、また人工組織を作る材料としての応用が期待されています。しかし、デザイン通りのゲル微粒子を実際に作製することは試行錯誤の連続であり、また、実際に水溶液中でどのような構造を取っているのかを確かめる有効な方法もありませんでした。今回、信州大学の鈴木大介准教授を中心とする共同研究チームは、ポリスチレンの微粒子が階層的にゲル微粒子の中に取り込まれた「多層型ナノコンポジットゲル微粒子」の作製に世界で初めて成功しました。そして、水溶液中でゲル微粒子が多層構造を取っていることを、生理研のクライオ電顕トモグラフィー装置を用いて実際に確認することができました。
今回作製に成功した多層型ゲル微粒子では、マイナスの電荷を階層状に帯びた高分子ゲル微粒子をタネとして、スチレンをゲル微粒子内部で反応(重合)させるという方法を取りました。結果、ゲル微粒子内部のマイナスの電荷部位を避けて、ポリスチレンが形成することを見出しました。硬いポリスチレン粒子は、やわらかいゲル微粒子の中心と最外層にのみ固定され、3層からなるゲル微粒子ができました(図1)。クライオ電顕トモグラフィーでは、ゲル微粒子を溶液ごと急速凍結して非晶質(非結晶)の氷の薄い膜に閉じ込めます。そして、これを低温のまま電子顕微鏡にセットして、氷が解けない弱い電子線で試料を傾けながら像を記録して行きます。そして、得られた連続傾斜像から計算機を使って元の立体の構造を再構築します。トモグラフィーでは、各層の正確な間隔だけでなく、最外層に並んだスチレン粒子どうしの隙間の距離も直接測定することができました。
本研究では、複雑な構造を持つゲル微粒子の作製とその評価の方法を確立することができました。本成果により、今後より複雑な機能を持たせたゲル微粒子の開発が可能となり、さらに構造の高度化への可能性も示されました。多層型ゲル微粒子は、複数の物質をゲル微粒子に取り込ませて、独立に作用させることが可能で、ゲル微粒子の応用範囲をさらに広げることになると期待されます。今後さらに、この手法を応用してより機能性の高いゲル微粒子の開発へとつなげていきたいと考えています。
図1 多層型ナノコンポジットゲル微粒子。クライオ電顕トモグラフィー像(右上図)
共同研究情報
渡邊 拓巳、鈴木 大介(信州大学)
ソン チホン、村田 和義(生理学研究所)
科研費・補助金、助成金情報
科研費(JSPS)、先端バイオイメージングプラットフォーム(ABiS)
リリース元
Title: Hydrophobic Monomers Recognize Microenvironments in Hydrogel
Microspheres during Free-Radical-Seeded Emulsion Polymerization
Authors: Takumi Watanabe, Yuichiro Nishizawa, Haruka Minato, Chihong Song, Kazuyoshi Murata, and Daisuke Suzuki
Journal: Angewandte Chemie International Edition
Issue: 59, 1-6
Date: March 30, 2020
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202003493
DOI: 10.1002/anie.202003493