すべて

検索

粒子構造からわかるRNAウイルスの機能的進化の様子

2020年05月26日 研究報告

ウイルスには遺伝子としてRNAを持つものがいます。これらはRNAウイルスと呼ばれます。しかし、RNAの構造によって(例えば2本鎖RNA構造)はDNAに比べて分解されやすく、またこれが宿主の免疫の標的となるため、ある種のRNAウイルスでは、感染した細胞の中でもその粒子構造を維持し、「粒子内転写」という方法を使って自身のRNAのコピー(1本鎖RNA)だけを宿主の細胞内に送り込んで自分のコピーを作らせます。菌類や原生生物を宿主とするトチウイルスもその一つでが、トチウイルスは生涯宿主細胞の外に出ることはなく、宿主の細胞分裂や交配により伝搬して行くことが知られています。そして、その複製の方法として、正二十面体型をした粒子の5角形の頂点に開いた小さな穴から、RNAのコピーを細胞内に放出します。

今回、ウプサラ大学の岡本健太博士を中心とする生理研を含めた共同研究チームは、国内の河川で採取された蚊から発見されたオモノリバーウイルス(OmRV)の粒子構造を低温電子顕微鏡という装置を用いて3.2 Å分解能で明らかにしました。OmRVは、トチウイルスに似た昆虫に感染するウイルスです。トチウイルスとは異なり成熟粒子が宿主細胞の外に放出され、再び別の宿主細胞に感染して増殖を繰り返します。今回の研究の結果、OmRVの粒子の大きさや構造はトチウイルスと基本的に同じでしたが、粒子の表面がアミノ酸の鎖からなる3種類のループ構造により部分的に隆起していることがわかりました。この部分が、従来のトチウイルスでは欠損しているため、OmRVの細胞への吸着や進入に関係していると考えられました。また、トチウイルスでRNAが放出される5角形の頂点に開いた穴は、OmRVでは栓のような形をした構造物により閉じられていました。計算機によるシミュレーションから、周囲の溶液条件によってこれが穴の開閉に関わっていることが示されました。宿主細胞間を伝搬するOmRVでは、細胞外においてより厳しい環境変化にさらされるため、通常はこの頂点の穴を閉じて内部のRNAを保護しているのではないかと考えられました。

今回の研究成果は、宿主細胞間を伝搬するトチウイルス様ウイルスの分子構造を初めて明らかにしました。そしてその構造比較から、OmRVで新たに確認された粒子表面の3種類のループ構造は、もともと宿主細胞内だけで生活していたトチウイルスが外界にも進出できるように進化した痕跡であろうと考えられました。また、RNAの通る穴を開閉できるようにすることで、細胞外の移動を可能にしたものと思われます。このようなウイルスの感染機能獲得に関する構造の知見は、時折我々を脅威に陥れる疫病ウイルスなどの感染予防や治療薬の開発にも応用できると期待されます。

fig-1s.png

図 OmRVの低温電顕像(背景)、立体再構成像(左下)、キャプシド(殻)の分子構造(右上)。

共同研究情報

岡本健太(ウプサラ大学)
宮崎直幸(筑波大学(現))、村田 和義(生理研)

科研費・補助金、助成金情報

スウェーデン研究評議会、クヌート・アリス・ヴァレンベリ財団、欧州研究会議、STINT, Sweden、科研費(JSPS, MEXT)、生理研共同研究、AMED BINDS

リリース元

Title: Acquired Functional Capsid Structures in Metazoan Totivirus-like dsRNA Virus
Authors: KentaOkamoto, Ricardo J.Ferreira, Daniel S.D.Larsson, Filipe R.N.C.Maia, Haruhiko Isawa, Kyoko Sawabe, Kazuyoshi Murata, JanosHajdu, Kenji Iwasaki, Peter M. Kasson, NaoyukiMiyazaki
Journal: Structure
Issue: pii: S0969-2126(20)30137-4
Date: May 10, 2020
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0969212620301374
DOI: https://doi.org/10.1016/j.str.2020.04.016
 

関連部門

関連研究者