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結核菌で新たに提唱された5属は、異なる形態的特徴を示した

2020年12月21日 研究報告

現在、生物の分類は主として、全ての生物が持つ16SリボソームRNA遺伝子配列の比較によって行われています。そして、その形態も、ヒトとサルが異なるように、この16SリボソームRNA遺伝子による分類によく一致しています。ところが、結核菌(マイコバクテリア科)においては、同じマイコバクテリア属に分類された菌の中でも、成長の遅いものと速いものがいることが最近の研究でわかってきました。そこで、さらに結核菌が持つコアタンパク質の遺伝子分析が行われ、その結果、これまで1種類と考えられていたマイコバクテリウム属が、さらに5つの系統群からなる可能性が浮上し、新しい分類が提唱されました。比較的成長の速いマイコバクテロイデスとマイコリシバクテリウムの2属、そして、比較的成長の遅いマイコリシバクター、マイコリシバチルス、マイコバクテリウムの3属です。しかし、これらが形態的にも異なるかどうかは不明でした。

 本研究では、これら新たに分類された5種類の菌の詳細な形態比較を、クライオ電子顕微鏡を用いて行いました。電子顕微鏡は電子線が通過できるように内部が真空になっているため、水分を含んだ生物試料は結核菌も含め、そのままでは乾燥して形や大きさが変わってしまいます。クライオ電子顕微鏡では、試料を氷の中に閉じ込めて、凍ったまま観察することができるため、本来の姿に近い像を得ることができます。これを用いて菌の長さや幅、真円度などを統計的に比較した結果、5種類の菌は、形態的にも有意な差を示すことがわかりました(図1)。このことから、同じ属の結核菌でも、それが生育する環境、例えば寄生する動物の気管などの特徴に合わせて、形態的にも細かな進化が起こっていること考えられました。

 本成果は、16SリボソームRNA遺伝子配列は生物の表現型を直接決定するものではなく、その比較では分類できないさらに細かな進化が、菌の細胞の形態を決定する遺伝子の変異として進んでおり、これらが形態という生育環境に適応するために最も重要な要因に反映されていることを明らかにしました。これらの知見は、今後、新たな予防法や治療薬の開発に大きく貢献すると期待されます。
 


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図1 結核菌で新たに提唱された5属

共同研究情報

山田博之(JATA結核研究所)、村田和義(生理研)

科研費・補助金、助成金情報

AMED、生理研共同研究

 

リリース元

Title: Fundamental cell morphologies examined with cryo-TEM of the species in the novel five genera robustly correlate with new classification in family Mycobacteriaceae
Authors: Hiroyuki Yamada, Kinuyo Chikamatsu, Akio Aono, Kazuyoshi Murata, Naoyuki Miyazaki, Yoko Kayama, Apoorva Bhatt, Nagatoshi Fujiwara, Shinji Maeda, Satoshi Mitarai
Journal: Frontiers in Microbiology
Issue: Vol. 11, 562395
Date: 16 November, 2020
URL: https://doi.org/10.3389/fmicb.2020.562395

 

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