
汎用型電子顕微鏡を用いて3Å分解能を超えるタンパク質の単粒子構造解析に成功
効果的で副作用の少ない薬の開発には、これが作用する生体内のタンパク質の構造情報が用いられます。現在、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析は、この創薬のためのタンパク質の構造決定において、重要な手法になりつつあります。ところが、これには数万以上のタンパク質粒子像を撮影して平均化する必要があり、これまですべて専用のクライオ電子顕微鏡装置により行われてきました。しかし、これらの装置は数億円以上し、国内では十分に普及が進んでいないのが現状であります。
そこで本研究では、国内でも大学や研究機関において導入が進んでいる汎用型の電子顕微鏡を活用して、タンパク質の構造決定ができないかどうかを検証しました。その結果、電子顕微鏡の倍率や露光条件などを最適化することにより、アポフェリチンと呼ばれる構造対称性の高い可溶性タンパク質において構造決定に必要な3Å(0.3 nm)分解能を超える解析に成功しました。得られたアポフェリチンの構造モデルからは、このタンパク質を構成するアミノ酸の個々の側鎖の形や向きも正確に決定することができました。また自動画像収集ソフトウエアを併用することで、画像撮影枚数を3倍程度増やすことができ、構造対称性が低い可溶性タンパク質であるβガラクトシダーゼでも、3.6 Å(0.36 nm)の構造解析が行えました。
本成果により、高価な専用のクライオ電子顕微鏡装置がなくても、必要な条件を最適化することにより、ある程度のタンパク質の構造解析が行えることが示されました。これを参考にして、今後、クライオ電子顕微鏡単粒子解析によるタンパク質の構造解析がさらに進展し、安全な創薬の開発が進むと期待されます。
汎用型電子顕微鏡とアポフェリチンの構造
共同研究情報
香山容子(テラベース株式会社、生理研)
レイモンド・バートンスミス、宋 致宖、村田和義(生理研)
加藤貴之(大阪大学)
寺本直矢(中央大)
科研費・補助金、助成金情報
受託共同研究(テラベース株式会社)
リリース元
Title: Below 3 Å structure of apoferritin using a multipurpose TEM with a side entry cryoholder
Authors: Yoko Kayama, Raymond N. Burton-Smith, Chihong Song, Naoya Terahara, Takayuki Kato, Kazuyoshi Murata
Journal: Scientific Reports
Issue: Vol. 11, 8395
Date: 16 April, 2021
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-021-87183-1