
光によって繊毛の運動を制御するタンパク質の位置を決定
繊毛は、精子の遊泳や気管支表面の水流の形成などを司っています。繊毛を構成するタンパク質の欠損により、不妊症を含めた様々な繊毛病が引き起こされることが知られています。そして、繊毛の運動は、「ダイニン」と呼ばれるタンパク質が繊毛の骨格である微小管の上をATPのエネルギーを使って移動することにより引き起こされます。
最近、筑波大学の稲葉一男教授、大阪大学の昆隆英教授、今井洋助教の研究グループは、繊毛の中にあるダイニンの新規のサブユニットを発見しました。このサブユニットはその性質から「DYBLUP(ダイニン結合BLUFタンパク質)」と名づけられ、これが欠損すると、光に対する繊毛運動の調節に異常をきたすことがわかってきました。
本共同研究では、DYBLUPが、繊毛のどこでどのような機能をしているかを、クライオ電子顕微鏡トモグラフィーという手法を用いて構造解析して調べました。結果、DYBLUPは繊毛の運動を引き起こすダイニンと微小管との間をつなぐテザーと呼ばれる構造の一部を構成することがわかりました(図)。そして、DYBLUPは青い光に反応してテザーの機能を調節していることも明らかになりました。
本研究では、繊毛の運動が光によって調節される仕組みを明らかにしました。これは、生物の光に対する反応(走光性など)の分子メカニズムを明らかにしただけでなく、これを応用することで細胞の運動を光によって制御することも将来可能になると期待されます。
通常の繊毛(左)とDYBLUPを標識した繊毛(右)
共同研究情報
今井 洋、山本 遼介、昆 隆英(大阪大学)
稲葉一男(筑波大学)
宋 致宖、村田和義(生理研)
科研費・補助金、助成金情報
生理研共同研究
リリース元
Title: A dynein-associated photoreceptor protein prevents ciliary acclimation to blue light
Authors: Osamu Kutomi, Ryosuke Yamamot, Keiko Hirose, Katsutoshi Mizuno, Yuuhei Nakagiri, Hiroshi Imai, Akira Noga, Jagan Mohan Obbineni, Noemi Zimmermann,
Masako Nakajima, Daisuke Shibata, Misa Shibata, Kogiku Shiba, Masaki Kita, Hideo Kigoshi, Yui Tanaka, Yuya Yamasaki, Yuma Asahina, Chihong Song, Mami Nomura, Mamoru Nomura, Ayako Nakajima, Mia Nakachi, Lixy Yamada, Shiori Nakazawa, Hitoshi Sawada, Kazuyoshi Murata, Kaoru Mitsuoka, Takashi Ishikawa, Ken-ichi Wakabayashi, Takahide Kon, Kazuo Inaba
Journal: Science Advances
Issue: Vol. 7, eabf3621
Date: 26 February, 2021
URL: https://advances.sciencemag.org/content/7/9/eabf3621