
ATP受容体チャネルP2X2の膜電位依存的動的構造変化の、膜電位固定下蛍光測光法による解析
P2X2は2回膜貫通型サブユニット3個で構成される、細胞外ATP によって活性化される非選択性陽イオンチャネルです。神経細胞を含む様々な細胞で発現し、痛覚伝達や聴覚伝達等に重要な役割を果たしています。我々は、これまでに、P2X2が、分子内に典型的な膜電位センサーを有しないにも関わらず、細胞外ATP濃度のみならず過分極電位でより活性化するという、膜電位にも依存する複雑なゲーティングを示すことを見出してきました。しかし、P2X2の膜電位感知機構、および膜電位依存的動的構造変化は未解決でした。
本研究において、我々は、アフリカツメガエル卵母細胞をin vitro発現系として用い、膜電位固定下蛍光測光法(VCF) によりATPと膜電位に依存する動的構造変化の光学的検出を試みました。P2X2の蛍光ラベルは、細胞内領域および膜貫通部位を含むいかなる部域にも特異的に高い効率で導入可能な、蛍光非天然アミノ酸(fUAA)であるAnapをタンパク質の翻訳時に取り込ませることにより行いました。
P2X2内の96カ所に1箇所ずつ網羅的にAnapを導入してVCF解析を行ったところ、ATP投与による蛍光強度の変化は様々な箇所で検出されましたが、膜電位依存的変化は、ただ2箇所、第2膜貫通部位の相互に近接するAla337とIle341でのみ観察されました(図1)。その変化は、膜電位固定のスピードとほぼ同じ極めて速いキネティクスを示し、また、膜電位変化に追随してリニアに変化しました。すなわち、観察された膜電位依存的変化は、P2X2の膜電位依存的ゲーティングを反映するものではなく、膜電位変化そのものを反映しました。この結果は、Anapのelectrochromic effectにより膜電位依存的な蛍光強度の変化が起きていると解釈され、特にAla 337の位置に電場が強く集約していることを示すものです。
さらに、膜電位依存的ゲーティングを際立たせるK308R変異を付加した変異体、すなわち、K308R & Ala337Anapを対象として同様な解析を行ったところ、上述のキネティクスが速く、膜電位変化に追随してリニアに変化する、electrochromic effectによる成分に加え、電流の活性化に随伴する、キネティクスが遅く、膜電位依存性を示す成分が観察されました。この変化は、P2X2タンパク質の膜電位依存的活性化に伴う構造の変化を反映するものです。
ATP(-) およびATP(+) の構造解析の結果から、ATP結合に伴い、第1膜貫通部位のPhe44が、Ala337の近傍に動き入ることが知られているため、ATP存在下でAla337とPhe44が相互作用していることが想定されました。そこで、種々の変異体を用いた機能解析を行い、ATP存在下でのAla337とPhe44の相互作用が、膜電位依存的ゲーティングに重要な役割を果たしていることが明らかになりました(図2)。電場が集約するAla337の位置におけるAla337とPhe44の相互作用が膜電位依存的ゲーティングの基盤であることを示すものです。
図1 (A) P2X2受容体チャネルのアミノ酸配列とトポロジー。膜2回貫通型で、3つのサブユニットが会合して機能する。
(B) P2X2の3次元構造。ひとつのサブユニットのみを表示。
(A, B) Anapを1カ所づつ網羅的に導入した96箇所のアミノ酸残基をドメインごとに異なる色を用いてハイライト。
図2 (A, B) P2X2の、ATP非結合の閉状態と、ATPが結合した活性化状態の局所の構造。
第2膜貫通部位のA337が位置する電場が集約した箇所に、ATP結合に伴い、第1膜貫通部位のF44が動き入る。
(C) A337, I341の部位に電場が集約していることを示す模式図。
科研費や補助金、助成金情報
科研費、大幸財団 外国人来日研究助成
リリース元
Title: Voltage-clamp fluorometry analysis of structural rearrangements of ATP-gated channel P2X2 upon hyperpolarization
Authors: Rizki Tsari Andriani, Yoshihiro Kubo
Journal: eLife 2021;10:e65822
Date: May 19, 2021
URL: https://elifesciences.org/articles/65822
DOI: DOI: 10.7554/eLife.65822