すべて

検索

プロテアソームα7サブユニットが作るダブルリングの構造揺らぎは、プロテアソームの形成過程に大きな手がかりを与える

2021年05月18日 研究報告

 プロテアソームは、細胞の中で不要となったタンパク質を分解するお掃除役のタンパク質複合体で、古細菌からヒトに至る細胞中に幅広く分布しています。プロテアソームの構造は、それぞれ7個のαとβサブユニットが作る2種類のリングが、αββαと並んだ四重の筒型構造を形成し、この中に不要なタンパク質を取り込んで分解します。ヒトのプロテアソームでは、このαとβのリングが1から7と名付けられたそれぞれ異なるサブユニットで構成されており、これが一定の順番に並んで各リングを形成します。しかし、このような複雑なリング構造がどのようにして形成されるのかはわかっていません。
 本研究の共同研究者である生命創成探究センターの加藤教授のグループは、これまでにプロテアソームの構成サブユニットのうちα7が単独でプロテアソームに似た二重のリング構造を形成することを発見してきました。また、これにα4やα6を加えると、二重のリングが壊されることを見出してきました。本研究では、このα7二重リングの機能を明らかにするため、その溶液中での構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析という方法を用いて調べました。
 本研究の結果、α7二重リングは、主にリングの重なり方の異なる3種類の構造を示すことが明らかになりました。そしてこれらをその形から、Symmetric型、Dislocated型、Open型と名付けました(図1)。これまでα7二重リングの構造は、X線結晶解析により報告されていましたが、今回の解析で、最もこれに近いSymmetric型では、結晶構造に比べてリングどうしが3Å*1離れて15度時計方向に回転して重なっていることがわかりました。そして、Dislocated型では二重リングがさらに11Åずれて重なっており、Open型ではこの二重リングが調理された二枚貝のように約40度開いた構造をしていることがわかりました。このことから、α7二重リングは、溶液中でダイナミックに揺らいだ構造を取ることが明らかになりました。
 本成果は、α7二重リングの多彩な形態変化を明らかにしただけでなく、複雑なプロテアソームの形成メカニズムの一端を知るための重要な手がかりを与えました。今後さらに研究を進めることによって、プロテアソーム全体の形成メカニズムが明らかにできるとともに、プロテアソームの医療や産業への利用を大きく加速するものと期待されます。

*1 1Å(オングストローム)は水素原子1個分の大きさ。0.1 nm 。

Fig01.jpg

図1 プロテアソームα7二重リングの形態変化

共同研究情報

加藤晃一、関口太一郎(ExCELLS/分子研/総研大)
佐藤匡史(名古屋市立大学)
宋 致宖、村田和義(ExCELLS/生理研/総研大)

科研費や補助金、助成金情報

ExCELLS共同研究、ABiS

リリース元

Title: Structural Fluctuations of the Human Proteasome α7 Homo-Tetradecamer Double Ring Imply the Proteasomal α-Ring Assembly Mechanism
Authors: Chihong Song, Tadashi Satoh, Taichiro Sekiguchi, Koichi Kato, & Kazuyoshi Murata
Journal: International Journal of Molecular Sciences.
Issue: 22(9), 4519
Date: 26 April, 2021
URL: https://doi.org/10.3390/ijms22094519

関連部門

関連研究者