
国内で発見された巨大ウイルス"コトンウイルス"は、ミミウイルス属の中でも新しい系統で、ゴルジ体状の小胞をウイルス工場に利用する
2021年08月31日
研究報告
2003年にミミウイルスが巨大ウイルスとして初めて報告されて以来、世界中で小型の細菌よりも大きなサイズのウイルスが次々と発見されています。これらの巨大ウイルスは、我々のような真核生物のみが持つ遺伝子をいくつも持っており、「ウイルスなのかそれとも生物なのか」、「何から進化してきたのか」などの分類学的な論争を度々巻き起こしています。
本研究の共同研究者である東京理科大学の武村政春教授のグループは、東京近郊の淡水域で採取した水から、ミミウイルスに似た巨大ウイルスを発見し、そのウイルスを覆う繊維状の物質の様子から”コトンウイルス”と命名しました。遺伝子解析の結果、このウイルスは、ミミウイルス属に属することがわかりましたが、その1.47 Mb(塩基付)にもおよぶゲノムサイズは、通常のミミウイルス(1.2Mb)よりもはるかに大きく、最大のゲノムサイズを示すツパンウイルス(1.5Mb)に匹敵するものでした。このようなことから、コトンウイルスは、ミミウイルス属の中でも、独立した系統であることが明らかになりました。
ミミウイルスは一般にウイルス工場と呼ばれる構造物を宿主であるアメーバ細胞の中に形成して、そこで増殖します。その様子を電子顕微鏡で観察したところ、コトンウイルスのウイルス工場の形成初期では、周辺がゴルジ体のようなヒモ状の物質で覆われる特徴を示しました(図)。本共同研究では、その様子を走査透過型電子顕微鏡トモグラフィー(STEM tomography)という手法を用いて、立体的に解析しました。その結果、コトンウイルスのウイルス工場では、ゴルジ体状の小胞を取り込んでウイルス工場を形成していくことがわかりました。これは、他のウイルスのウイルス工場では見られない現象で、コトンウイルス特異的なウイルス工場形成過程であることが示唆されました。
本成果は、多様な巨大ウイルスの世界を明らかにしただけでなく、巨大ウイルスがどのように宿主である細胞を利用し、共存しているかについての新たな知見を与えました。今後、このような現象を応用することにより細胞内を改変する新たなツールとしても利用が可能であると期待されます。

図1 コトンウイルスが宿主アメーバ 内に形成する初期のウイルス工場
共同研究情報
武村政春(東京理科大学)
宋 致宖、村田和義(生理研/ExCELLS/総研大)
宋 致宖、村田和義(生理研/ExCELLS/総研大)
科研費や補助金、助成金情報
科研費、生理研共同研究
リリース元
Title: Cotonvirus japonicus using Golgi apparatus of host cells for its virion factory phylogenetically links tailed tupanvirus and icosahedral mimivirusAuthors: Haruna Takahashi, Sho Fukaya, Chihong Song, Kazuyoshi Murata, Masaharu Takemura
Journal: Journal of Virology
Issue: 95(18): e0091921
Date: 25 August, 2021
URL: https://doi.org/10.1128/JVI.00919-21