時間の長さを正確に知覚することに関する脳領域の発見
2022年02月17日
研究報告
私たち一人ひとりが知覚する時間の長さは主観的で,長くも短くもなります。近年、私たちが音や光といった物理情報から主観的な時間の感覚を持つことのメカニズムが明らかになりつつあり、時間知覚はある種の個性であることが明らかになりつつあります。ですが楽器を正確に演奏する場合など、日常生活の多くの場面では、主観的に知覚される時間間隔が物理的な時間間隔と一致すること、すなわち時間間隔を正確に知覚する能力が求められます。たとえば楽器の演奏をする際には、音と音の間隔を正確に知覚できなければなりません。これまでの研究では、時間の間隔を正確に知覚することの背後にどのような神経基盤が存在するかは明らかになっていませんでした。
今回、生理学研究所 定藤規弘教授および橋口真帆(総研大生)らは、ヒトを対象として、時間間隔を報告する課題を行っている最中の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(注1)により計測し、時間間隔を知覚する能力と関連した神経基盤を検討しました。
参加者は、長い時間間隔の音と短い時間間隔の音(アンカー音)を聞き、その直後に聞くターゲット音がアンカー音の長い音と短い音のどちらに近いかを報告します。これを繰り返すことで、参加者が時間間隔を正確に知覚する能力を定義できます。
次いで、参加者の時間間隔知覚の正確さとfMRIで測定された脳活動量との関係を解析しました。実験課題を行っている最中の脳活動を解析したところ、時間間隔の知覚が正確である参加者ほど、右前島皮質・右下前頭回の活動量が大きいことが分かりました(図)。つまり、時間間隔を正確に知覚することに右島皮質・右下前頭回が関連することが分かりました。
過去の研究では、主観的な時間の感覚は私たちの身体の外にある物理情報だけを用いて成立するのではなくて、身体の内側にある、普段は意識しない内臓感覚や心拍などの情報も用いて成り立っていることを報告しています。また、島皮質は他の領域と連携するハブとして働くことも報告されています。このような、島皮質の役割が私たちの時間間隔を正確に知覚できる能力に関連していると考えられます。
今回分かった、時間間隔を正確に知覚することに重要な島皮質は複数の精神疾患に関連する領域でもあります。また、精神疾患患者と健常者では時間の感覚が異なるという報告もあり、本研究は将来的に精神疾患群との比較を行うことで、精神疾患の特性を理解することへの貢献が期待できます。
※機能的磁気共鳴画像法(fMRI): 局所的な神経活動に伴って、血液中の酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの量が変化する。この血液中の変化を反映するとされる信号(BOLD信号)を測定する手法。
時間間隔を正確に知覚することに右島皮質・右下前頭回の活動が関連することが分かりました。島皮質が担っている、身体の外側の物理情報と身体の内側の情報を統合させ、他の領域と連絡するハブとしての役割が時間の間隔を正確に知覚することに関係していると考えられます。
共同研究情報
橋口真帆(総合研究大学院大学)
守田 知代(脳情報通信融合研究センター)
原田宗子(広島大学)
LE BIHAN, Denis(生理学研究所/NeuroSpin)
守田 知代(脳情報通信融合研究センター)
原田宗子(広島大学)
LE BIHAN, Denis(生理学研究所/NeuroSpin)
科研費や補助金、助成金などの情報
AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「精神的価値が成長する感性イノベーション拠点」
リリース元
Title: Neural substrates of accurate perception of time duration: A functional magnetic resonance imaging study.Authors: Maho Hashiguchi , Takahiko Koike , Tomoyo Morita , Tokiko Harada , Denis Le Bihan , Norihiro Sadato.
Journal: Neuropsychologia
Issue: 166:108145
Date: 2022 Feb 10
URL (abstract):
DOI: 10.1016/j.neuropsychologia.2022.108145