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心筋型膜電位依存性Na+チャネルNav1.4の特徴的なふるまいは、他のNa+チャネルよりも、閉状態直結の不活性化状態に入りやすいことによる。

2022年05月26日 研究報告

 膜電位依存性Na+チャネルは、体内の種々の臓器や細胞の活動電位の上昇相で重要な役割を果たします。Na+チャネルの活性化は、4リピートからなる分子内の4つの膜電位センサー(VSD)の非同期的な動きにより起こります。これまでに、骨格筋型のNa+チャネルNav1.4においては、イオン透過ゲートの開口にはVSD-I, II, III の動きで十分であり、不活性化には、VSD-IVの動きで十分であることが報告されてきました。
 本研究では、心筋型のNav1.5、特に幼弱期にみられるスプライスバリアントである Nav1.5e の性質を明らかにするために、各VSDの持つ陽電荷を失わせた変異体の電気生理学的解析、各VSDに蛍光ラベルを付加し、膜電位依存的なVSDの動きをモニターする膜電位固定下蛍光測光解析を行いました。
 その結果、Nav1.5においては、その不活性化にVSD-III, IVの両方が必要であること、定常状態での不活性化の程度には、すべてのVSDが寄与すること、膜電位依存的活性化に、VSD‐IVも(おそらく不活性化状態の強化を通して間接的に)寄与することが示されました。さらに、状態遷移モデルを用いた数理的解析により、この性質は、Nav1.5チャネルにおいては、他のNavチャネルよりも閉状態に直結した不活性化状態 (closed-state inactivation) に入りやすいためにもたらされることが明らかになりました。この結果は、類似したVSDを用いながら、Navの種類により挙動が異なることの分子基盤を提示するものです。



VSD-III およびVSD-IVの両方が不活性化に必須であること等を示す状態遷移モデルとシミュレーション解析
(A) C0000 は、4つのVSDすべてが静止状態にあることを示す。右向きの移行は、まず、VSD-III、続いてVSD-II、最後にVSD-Iの動きを示す。このことは、VSD-IIIの動きがより低い電位から起こることを示した膜電位固定下蛍光測光解析の結果、VSD-Iの陽電荷の中性化が最もゲートの最終開口に大きな影響を示した電気生理学解析の結果に基づき、単純化したものである。この3つの動きがゲート開口には十分である。下列から中列への移行はVSD-IVの動きを反映するもので、中列から上列への移行は、不活性化状態へ入ることを示す。左上隅のI状態が無いのは、Nav1.5チャネルでは、不活性化に入るのにVSD-IVのみならず、VSD-III の寄与が必要であることを反映する。また、他のNavに比して、close 状態に直結した inactivation 状態に入りやすいことが、Nav1.5の特徴と考えらえる。
(B, C, D, E) (上)チャネル活性(コンダクタンス)の膜電位依存性。(下)定常状態の不活性化の膜電位依存性を示す。黒色は、野生型のシミュレーションによる再構成のデータである。カラーで示したものは、それぞれ、VSD-I (B), -II (C), -III (D), -IV (E) の膜電位センサーの陽電荷を中性化した変異体の、状態遷移モデル中の、変異により影響を受ける箇所のrateを変化させて行ったシミュレーションの結果である。VSD-IVの変異により活性化が影響を受けるのは、直接的な効果ではなく、不活性化状態にはいりやすいことによると解釈される。

共同研究情報

生理研が学術交流協定を締結しているマギル大学(カナダ、モントリオール)との国際共同研究の成果です。
2018年の春に、Derek Bowie 教授、大学院生の Adamo S Mancino さんと Yuhao Yan さんの3人が生理研に1か月滞在して、共同して膜電位固定下蛍光測光による動的構造変化に関する実験を行いました。

研究費の情報

科研費

リリース元

Title:
Closed-state inactivation of cardiac, skeletal, and neuronal sodium channels is isoform specific

Authors:
Niklas Brake, Adamo S Mancino, Yuhao Yan, Takushi Shimomura, Yoshihiro Kubo, Anmar Khadra, Derek Bowie

Journal: Journal of General Physiology
Issue:  2022 Jul 4; 154(7): e202112921
Date:  Epub 2022 May 25
URL:  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35612552/
doi:   10.1085/jgp.202112921.

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