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渓流に生息するアマゴの高温センサーは熱に鋭敏に応答する

2022年07月28日 研究報告

アマゴなどのサケ・マスの仲間は北半球を中心に渓流などの涼しい環境に生息しています。18℃以下の水温を好み、多くの種は30℃以下の水温で死んでしまうほど高温に脆弱です。しかし、夏の暑い時期には生息地の河川でも生存限界温度に近い水温に達する場合もあり、そのような状況では高温を避け、湧水や支流などの水温が低い場所に移動します。近年、温暖化により極端に高温になる日が多くなっており、サケ科魚類において高温を忌避する行動応答の重要性が増しつつあると考えられます。今回、生理学研究所の齋藤茂助教らは、鳥取大学の吉村綾乃(学部生)と太田利男教授と連携し、日本在来のサケ科魚類であるアマゴを用い、高温に対する行動応答、および、TRPV1(トリップ・ブイワン)の機能を調べました。TRPV1はヒトやマウスでは、感覚神経に存在し、43℃以上の高温、また、唐辛子に含まれるカプサイシンを受容するセンサー分子であることが知られています。

 まず、アマゴからTRPV1を単離し、機能特性を調べたところ、アマゴのTRPV1はカプサイシンおよび高温刺激によって活性化されることが分かりました。アマゴTRPV1が活性化され始める温度は約28℃であり、これまで調べられた脊椎動物種の中で最も低い温度で活性化されることを発見しました。
次に、アマゴの温度応答行動を調査しました。5℃程度から水温を上昇させた際のアマゴの遊泳行動を観察したところ、約26℃から活動量が上昇し、28℃程度で正常な姿勢で泳げなくなることが分かりました。また、TRPV1を活性化するカプサイシンを水に加え温度を上昇させた場合、カプサイシンを加えない場合よりも低い温度からアマゴの活動量が上昇しました。カプサイシン存在下ではTRPV1が敏感になり活性化される温度が低下したため、より低い温度からアマゴの活動量が上昇したと考えられます。

これらの結果から、アマゴにおいてもTRPV1は高温受容のセンサー分子として機能しており、また、冷涼な環境に適応する進化の過程でより低い温度から活性化するようにその温度応答特性が変化してきたと考えられます。本研究は、動物が異なる温度環境に適応する際の分子機構の解明につながるだけでなく、水産業で盛んに利用されるサケ科魚類の養殖や保護などにも有用な情報を提供すると期待されます。



共同研究情報

研究者名:吉村綾乃、高橋賢次、太田利男
研究機関名:
鳥取大学・農学部
研究者の所属講座名、部門名:基礎獣医学講座

研究費の情報

科研費

リリース元

Title: Functional analysis of thermo-sensitive TRPV1 in an aquatic vertebrate, masu salmon (Oncorhynchus masou ishikawae)
Authors: A. Yoshimura, S. Saito, C.T. Saito, K. Takahashi, M. Tominaga, T. Ohta
Journal: Biochemistry and Biophysics Reports     Issue: 31 Date: 2022年7月21日
URL (abstract): https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405580822001157?via%3Dihub
DOI: https://doi.org/10.1016/j.bbrep.2022.101315

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