
Sigma-1受容体のアンタゴニストによるGIRKチャネルの直接抑制の構造基盤
2024年03月26日
研究報告
Gタンパク質結合型内向き整流性K+チャネル(GIRK)は、神経細胞や心筋細胞の興奮性の調節に重要な役割を果たすイオンチャネルで、m2ムスカリニック受容体(m2R)等のGiタンパク質結合型受容体の活性化に伴って放出されるGbgによって活性化される。また、PIP2、Na+、エタノール、Ivermectin 等によって活性化されること、Ba2+、Cs+、Tertiapin-Q、抗精神薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン剤等によって抑制されることが知られている。我々は、Sigma-1受容体(S1-R)のアンタゴニストとして知られる小分子BD1047が、GIRKチャネルを直接抑制することを見出し、その結合の構造基盤を明らかにした。S1-Rは、主としてEndoplasmic reticulum (ER) 等のオルガネラ膜上に発現する多彩な機能を有するシャペロンタンパク質で、薬物依存、パーキンソン病、アルツハイマー病等との関連について報告されている。種々の細胞応答に伴い、その細胞内局在が、ER膜上のミトコンドリアに面する位置(MAM)から、Plasma membrane(PM)に面する位置(ER-PM junction) 等に動的に変化することが知られている。これまでに、S1RがER-PM junction においてm2Rと共局在することが報告されている。我々は、S1Rによるm2Rの機能修飾の解析を目指して研究を開始し、その中でS1Rのantagonistとして知られているBD1047の効果を検証していた。BD1047は、アフリカツメガエル卵母細胞に、S1R、m2R、およびm2RのエフェクターであるGIRKチャネルを共発現させたところ、GIRKチャネルの電流を抑制した。その抑制効果は、予想に反してGIRKチャネルのみを単独で発現させた場合でも観察された。このことから、BD1047がS1Rの機能修飾によるm2Rの抑制を介してではなくGIRKチャネルを直接抑制する可能性が示唆された。そこで、詳細な電気生理学的解析を行ったところ、以下が観察された。
(1) 卵母細胞を発現系として用いた2電極膜電位固定法による解析により、BD1047が、GIRK4チャネル電流をより強く抑制し、GIRK2チャネルに対する抑制作用は弱いことが示された。
(2) GIRK1/4チャネルが発現しているラットの急性単離心房筋細胞を対象としたパッチクランプ法による解析において、BD1047は、ACh投与により活性化されたGIRKチャネル電流を抑制した。
(3) GIRK4とGIRK2のキメラを用いた比較解析により、N末端細胞内領域の近位部がBD1047による電流の抑制に重要であることが示された。
(4) この部位の点変異体を用いた解析により、GIRK4のLeu77(GIRK2の対応部位はIle 82)が、BD1047による電流の抑制に重要であることが示された。
(5) 分子ドッキング解析により、BD1047が、GIRK4のLeu77を中心とする部域に結合すること、GIRK2のIle82部域には結合しないことが確認された。
(6) また、GIRK4のLeu77近傍の、GIKR2, GIRK4で共通しているLeu74, Leu81, Leu84も結合に関与する可能性が示された。そこで、これらをAla残基への変異体を作成して解析したところ、これらの残基もBD1047の抑制に寄与していることが示され、同時に、この結果は分子ドッキングの結果の信頼性を裏付けた。
(7) 我々は、GIRK2のIle82がIvermectin による活性化に重要であることを既に発表している。IvermectinとBD1047の結合が競合する可能性が想定されるため、解析を行ったところ、Ivermectin存在下では、BD1047による電流抑制の IC50が増加し、かつ抑制の速度が低下する、すなわち抑制が減弱することが確認された。

分子ドッキング解析によるGIRK4チャネルに対するBD1047の結合
GIRK4チャネルの構造モデルを、構造が解かれているGIRK2を基に、SWISS-MODELで構築し、PyMOLによる分子ドッキング解析を行った。左図は全貌で、右図がN末端細胞内領域の近位部の拡大図。右図の中央にスティック表示したのがLeu77残基で、その上方に、クラウド状に多数の結合したBD1047分子が表示されている。
担当研究者
Chang Liu (NIPS Research Fellow)Michihiro Tateyama (Associate Professor)
Yoshihiro Kubo (Professor)
リリース元
Journal of Biological Chemistry2024 Mar 22:107219 Online ahead of print.
Structural determinants of the direct inhibition of GIRK channels by Sigma-1 receptor antagonist
Chang Liu, I-Shan Chen, Michihiro Tateyama, Yoshihiro Kubo
PMID: 38522516
DOI: 10.1016/j.jbc.2024.107219