
マカクザル前頭葉における自己と他者の動作の空間情報表現 研究成果の概要
2024年07月25日
研究報告
例えば他人がやっていることを真似する時には、その人の腕や足はどちらを向いているか、また自分の体に置き換えた場合どちらに向けることになるのか、あれこれと考えると思います。このような、動作の空間情報が脳内でどのように表現されているのかについての研究は、これまで自己の動作を対象にしたものが多く、他者の動作に関してはほとんど研究されてきていません。前頭葉には、自己と他者の動作情報処理に関わる、腹側運動前野(PMv)と内側前頭前野(MPFC)という2つの脳領野があることが知られています。今回、これらの脳領野の神経細胞が、自他の動作の空間情報について、どのような性質を持っているのか詳細に調べました。まず神経活動を記録するニホンザル(自己ザル)に、パートナーと交替でおこなう動作選択課題をトレーニングしました。この課題では、自己ザルとパートナーが向かい合って座り、それぞれに左、中央、右の3つのボタンが割り当てられています。そのうち1つを押して、3つのボタンの中に1つだけある正解を探します。この動作を3回毎に交替しながら続けます。ただし、11~17回毎に正解の位置が変わります。また、パートナーを本物のサル(リアル他者)だけでなく、ビデオ録画したサル(ビデオ他者)や、ビデオ録画した棒状の物体(ビデオ物体)にした、他者の本物らしさが異なる条件を用意しました。
PMvとMPFCから課題中の神経活動を記録したところ、どちらの脳領野も自他の動作に応答する神経細胞のうち約4割が、選択したボタンの位置によって活動を変化させる、すなわち空間選択性を有することが分かりました。一方でMPFCはリアル条件の際に最も空間選択性を示す細胞の数が多く、ビデオ他者条件やビデオ物体条件ではその数が減ったのに対し、PMvはどの条件でもあまり変わりませんでした。この結果は、MPFCの方がより社会的な文脈における空間情報を処理している可能性を示唆しています。さらに興味深いことに、数は少ないものの、自己の動作時と他者の動作時で、よく活動するボタンの位置が逆転する細胞が存在することが分かりました(例えば、自分の動作の時は自分から見て左側のボタンを押す際によく応答し、他者の動作の時は、自分から見て右側のボタンを押す際によく応答する)。このような神経細胞は、模倣や視点取得(他者の視点・立場に立つこと)などの社会的な認知機能に役立っているのかもしれません。

役割交替課題中の自己(A、左)と他者(A、右)の動作と、自他の動作によって空間選択性が逆転する神経細胞の活動の模式図(A、中央;B)
科研費などの情報
本研究は、以下の研究資金の支援を受けて実施しました。科学研究費助成事業・基盤研究(S)(22H04931)(磯田昌岐)
日本医療研究開発機構・「脳とこころの研究推進プログラム」(JP23wm0525001)(磯田昌岐)
科学研究費助成事業・特別推進研究(19H05467)(二宮太平)
科学研究費助成事業・基盤研究(C)(21K07267)(二宮太平)
本研究は、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」より提供されたニホンザルを用いて実施しました。
論文情報
Title: Dynamic spatial representation of self and others' actions in macaque frontal cortex
Authors: Taihei Ninomiya and Masaki Isoda
Journal: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
Date: July 24th, 2024
DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.2403445121
Authors: Taihei Ninomiya and Masaki Isoda
Journal: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
Date: July 24th, 2024
DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.2403445121