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ラットの生殖細胞形成に必要な遺伝子を発見!

2025年08月22日 研究報告

概要

受精卵が赤ちゃんになる発生過程の初期に作られる始原生殖細胞は、精子・卵子の元になる、生物にとって非常に重要な細胞です。しかし哺乳類のモデル動物であるラットにおいて、始原生殖細胞がどのような遺伝子の働きによって作られるかはよく分かっていませんでした。今回研究グループは、ラットにおいて始原生殖細胞を作るために必要な遺伝子を明らかにし、さらに、それらの遺伝子を用いて作られた始原生殖細胞をもとに、正常な赤ちゃんラットの出産に成功しました。本研究成果は、Stem Cell Reportに掲載されました。
 

研究成果

研究グループは、自身らが以前に開発したラット ES 細胞 (※1) から試験管内で始原生殖細胞を作る方法 (引用文献) を利用して、始原生殖細胞作製に重要な遺伝子を検証しました。これまでの研究で、ラットと同じ齧歯類であるマウス (※2) では、遺伝子のみで始原生殖細胞を作るために2種類の方法が主に知られています。1つは、Tbxtという遺伝子を使う方法で、もう一つは、Prdm14, Blimp1, Ap2 という3つの遺伝子を使う方法です。まず、研究グループは、この2種類の方法が、ラットの始原生殖細胞を作る際にも同様に働くかを検証しました。その結果、Tbxt という遺伝子を使う方法では、マウスでの報告と同じように始原生殖細胞を作れましたが、Prdm14, Blimp1, Ap2 という3つの遺伝子を使う方法ではラットの始原生殖細胞を作ることはできませんでした。そこで詳細を調べたところ、Etv4 という遺伝子の活性化が必要であることを突き止め、3つの遺伝子に加えてEtv4 という遺伝子をあわせて使うことで、遺伝子だけでラットの始原生殖細胞の作製に成功しました (イメージ)。上記の遺伝子を使って作られた始原生殖細胞は、生殖細胞を作れないラットの精巣に移植すると精子を作ることができ、作られた精子で顕微授精 (※3) をすると正常な赤ちゃんラットを生ませることができました。このことから遺伝子を用いることで、通常の身体の中で作られる始原生殖細胞と遜色ないものが作れることがわかります。
 今回の研究ではラットの始原生殖細胞を作るのに必要な遺伝子を明らかにできました。また加えて、マウスで明らかにされてきたことをラットでも検証することで今まで発見されてこなかった新たな知見が得られることがわかりました。このような研究を丁寧に重ねていくことで、将来的には不妊症の原因解明や、試験管内で生殖細胞を作り動物の繁殖や生殖医療に利用するといった新しい技術の開発に繋がると期待されます。

図_JP.jpg
本研究の概要
通常の生殖細胞作製には BMP というタンパク質が用いられますが、
本研究ではBMPの代わりに外から入れた遺伝子を使うことで、
始原生殖細胞を作るために重要な遺伝子を明らかにしました。

(引用文献)
Oikawa, M., Kobayashi, H., Sanbo, M., Mizuno, N., Iwatsuki, K., Takashima, T., Yamauchi, K., Yoshida, F., Yamamoto, T., Shinohara, T., et al. (2022). Functional primordial germ cell-like cells from pluripotent stem cells in rats. Science. 376, 176-179.
 

用語説明

※1 ES 細胞: 受精卵から作ることのできる身体のあらゆる細胞になれる細胞です。試験管の中で無限に増えることができます。
※2 マウスとラット: マウスはハツカネズミ、ラットはドブネズミでどちらも同じ齧歯類です。ラットの方が 10倍ほど大きく賢いことから、外科学あるいは脳科学・生理学研究に適しているという利点があります。
※3 顕微授精: 細いガラスの針を使って精子を直接卵子の中に入れ受精させる方法で、不妊治療の現場でも使われています。
 

研究者情報

研究者名:小林俊寛、及川真実、岩月研祐、齋藤聖
研究機関名:東京大学医科学研究所
研究者の所属講座名、部門名:再生発生学分野
 
研究者名:小林久人、栗本一基
研究機関名:奈良医科大学
研究者の所属講座名、部門名:発生・再生医学講座
 
研究者名:山口智之
研究機関名:東京薬科大学
研究者の所属講座名、部門名:再生医科学研究室
 
研究者名:山本拓也
研究機関名:京都大学
研究者の所属講座名、部門名:未来生命科学開拓部門

支援・謝辞

科研費 基盤(B) (23K20043)、国際共同研究加速基金(国際先導研究) (24K01944)、学術変革(A) (25H01349)
AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム(再生・細胞医療・遺伝子治療研究開発課題) (JP22bm1123008)
JST 創発的研究支援事業 (JPMJFR233J)
公益財団法人第一三共生命科学研究振興財団 PIセットアップ研究助成

論文情報

Title: Transcription factor-mediated germ cell induction in rats reveals ETV4 cooperates with germline specifiers
Authors: Mami Oikawa, Hiroki Kojima, Hisato Kobayashi, Kenyu Iwatsuki, Hijiri Saito, Makoto Sanbo, Kazumi Nishioka, Tomoyuki Yamaguchi, Takuya Yamamoto, Kazuki Kurimoto, Masumi Hirabayashi, Toshihiro Kobayashi
Journal: Stem Cell Reports
Issue: vol.20 102599
Date: August 12, 2025
URL (abstract): https://www.cell.com/stem-cell-reports/fulltext/S2213-6711(25)00203-6
DOI:  10.1016/j.stemcr.2025.102599 
 
 

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