2本足で立つ生理学研究者と日本生理学会に

【2011年01月07日】

会長 岡田 泰伸

 日本生理学会員の皆様、2011年あけましておめでとうございます。

 2010年のわが国は、まさに激動の年であったわけですが、フラストレーションが強く残る年でもありました。これまで長年にわたって覆い隠されてきたり見て見ぬふりをされてきた根本的矛盾や問題点が一挙に噴出・露呈して、しかもそれに対して期待される打つ手が何ら講じられず、右往左往の一年でした。しかし、再びもとの鍋にもどして蓋をすることはできませんし、してはなりません。2011年は、何よりもグランドデザインと長期ビジョンを押し出して、それに向かって一歩一歩前へ進め始める年であってほしいものです。
 私達の生理学会は、2010年2月17日に、解剖学会、生化学会、薬理学会と共に、「基礎医学教育・研究の活性化に対する要望書」を民主党および文部科学省に提出しました(日生誌72巻4号記事参照)。政務官のお二人(なんと2010年9月に退任!)にもじっくりと説明をし、それなりの前向きなご意見はいただきました。また、盛岡で開催された大会において、「日本の基礎医学教室の現状と将来展望」というシンポジウムを持ち、日本学術会議から谷口基礎医学委員会委員長、全国医学部長病院長会議から小川岩手医科大学長、文部科学省から新木医学教育課長、そして解剖学会からは内山会長をお招きして議論し、この問題を強くアピールいたしました(生理学会ホームページ参照)。この問題の解決には、①基礎医学教員増員、②大学の運営費交付金削減政策の転換、③基礎医学研究者育成制度確立と環境整備などが不可欠です。しかしながら、①については予算措置のないまま医学部学生定員増が行われ、②についてはこれまで以上の削減が行われようとしており、③については依然として卒後初期臨床研修制度はそのままの形で存続し、基礎医学研究を目指す若者のための受入制度や奨学金などの整備も全く行われていません。2011年は、これらの改善に向けて声を更に大にすると共に、できうる自己努力を含めて、あらんかぎりの取り組みが必要でしょう。
研究はあくまで人によってなされるものですが、いまや一人のみでやり遂げられるものではありません。人と人の協働や議論によって行われるものであり、優れた研究には何よりもみずみずしい感性と若い発想の参画が必要とされているでしょう。それゆえに、「研究」は広い意味での「教育」と不可分の関係にあります。医学・生命科学およびその関連領域の学生に教える中で生理学の面白さを伝え、若手研究者を熱意が伝わる形で育成し、分野外の若者たちにもわかりやすく説明しつつ生理学分野への興味を誘発し、子供たちにもヒトの体のはたらきの不思議を伝えつつ彼らの興味を発掘していくこと、これらは未来の生理学の基盤を形成するばかりでなく、今の私たちを自己啓発することにもなり、時には思わぬ新発想がもたらされる契機ともなるのです。私たち生理学研究者も生理学会も、「研究」と「教育」の二本足で立つことの重要性を、この困難な時期にこそ原点に立ち戻って、確認する必要があるのではないでしょうか。そのためには何を求め、何を排していかなければならないかを考えながら、「大地」を踏みしめつつ一歩一歩前へ進める日常としたいものです。

2011年1月  “ビジョン” (日本生理学雑誌)から転載