年頭のあいさつ(2012年)

【2012年01月04日】

所長 岡田 泰伸

生理学研究所で働き、学ぶ皆さん。新年明けましておめでとうございます。

 昨年は、3月11日の大「天災+人災」など、悲しく苦しい一年でしたが、地球上での人々の暮らしがどうあるべきかを考え直させるターニングポイントとなった年でもありました。生理学研究所は、この未曽有の大災害に対応しての多くの取組をしてまいりましたが、研究活動もおろそかにすることなく、多くの成果を上げた1年でした。本年は、予算削減や人件費削減が見込まれるなど、まだまだ試練が続くものと思いますが、困難なときほど基本に立ち帰り、未来を見据えて、希望を持って着実にやるべきことを実行していく姿勢が必要だと思います。

 耐震工事に伴って色々と古い荷物の整理をしていただいた中で、1979年11月に当時の所長の内薗耕二先生が書かれた“生理学研究所の基本的考え方”という7ヶ条の「生理学研究所の憲法と称すべきもの」の額が出てきました。玄関の受付あたりに置かれていましたので読まれた方も多いと思いますし、1987年発刊の“生理学研究所の十年の歩み”という書物にも集録されているので御存知の方も多いとは思いますが、ここに簡単に要約します。まず第1条に、「人体の機能を総合的に解明することを目標にする」と高々と目標が掲げられています。そして、2~4条にはそれに向けて、部門を超えた統合的・異分野連携的協力によってプロジョクト研究を推進して、一定期間毎に点検・再編成を行うことが書かれている。第5・6条には国内外研究者との交流や共同利用研究の推進を、共通研究施設の運用を含めて行っていくことが書かれており、第7条には若手研究者育成と大学院生教育への努力がうたわれている。そして末尾には、「研究所設立当時の理念をここに再確認し、これを後世に誓うものである」と述べて締め括っている。まさにここには、人体機能解明のために、①世界トップ研究推進、②共同利用研究推進、③若手研究者育成・未来科学者発掘という3つのミッションを果たしていくとする現在私達が進めている基本路線そのものが、当時から明確に打ち出されていることがわかる。1987年5月の科学新聞には、当時の所長の江橋節郎先生が、「私の大きな希いは、人間生理学研究施設を設けて、人間生理学を発展させることである。」と述べられています。このように、人間生理学研究を忘れては生理学研究所における研究は(たとえそれが現在主として分子細胞生理学的なものや脳科学的なものでそれぞれあったとしても)ありえません。

 本年は、第1のミッションを果たすために、インフラのさらなる整備を行いたいと思います。特別経費として昨年度から措置されている「ヒトとモデル動物の統合的研究による社会性の脳神経基盤の解明」においては、ハイテスラfMRIなどの大型機器の配備は残念ながら予算的に可能とはなりませんでしたが、現在配備されているfMRIと二光子レーザー顕微鏡の観察レベル間をつなぐようなソフトウエアの開発や充実化は実現ができるものと考えています。また、新たに“基盤的設備等整備費”が措置される運びとなり、長年の懸案であった超高圧電子顕微鏡へのCCDカメラ配備による機能高度化というコミュニティからの強い要望にも応えることが可能となりましたし、新たにコネクトミクス研究を推進するための装置の導入もできることになりました。生理研では、第2のミッションを遂行する体制をより整備するためには、必要に応じて組織改編も辞さない方針をとっています。たとえ外部資金等により推進されたプロジョクト研究の成果であっても、それが全国的共同利用に供しうるような安定的な新技術として確立した暁には、運営費交付金をつぎこんででも共同利用に広く開きうる体制をとりたいと考えます。4月からの組織改編も含めて現在検討中ですので、その際は皆様の協力をお願いしたいと思います。第3のミッションの中身の1つである若手研究者育成には、何よりも優れた大学院生のリクルートが求められますが、そのためには奨学金の充実化が必要不可欠です。このために、新たに奨学金支援のための寄付金を募る事業を開始したいと考えています。所内外の皆様に広くお願いすることになるかと思いますので、その節はご協力の程、お願い致します。また、未来の若手研究者の発掘には、広報・情報発信活動が重要となりますが、本年は地域貢献の強化を目指して地元企業との連携も含めた新たな取り組みも計画中であります。

 私達が携わっている学術研究・基礎的研究の成果は殆どの場合、すぐには人々の生活に直接結びつく形で結実するものではありませんが、わが国や人類の将来を根底から支える形で結実するものとなります。自信と希望を持って、研究者の皆さんには土日祭日も、盆も正月も、眠っている時でさえ、頭の奥のどこかでは仕事のことを考える生活を送ってほしいものだと期待しています。また、研究系のみならず技術系・事務系の全職員および大学院生の皆さんにも、誇りを持って、毎日の地道な努力を続けていただきたいと念じます。皆で共に、明るく楽しく、働きがいのある研究所にしてまいりましょう。