年頭のあいさつ(2014)

【2014年01月07日】

所長 井本 敬二

明けましておめでとうございます。

 

 新しい年を迎え、今年の研究の計画などをいろいろと考えられていることと思います。

 この数年間を振り返ってみると、バイオサイエンス研究の発展には目覚ましいものがあります。実際、昨年末にScience誌に取り上げられたBreakthrough of the Yearの10件のうち、8件までがバイオサイエンス領域の研究でした。生理学研究所に関係する研究としては、遺伝子改変動物の劇的な効率化を図るCRISPR、脳などの組織を透明化し組織の深いところにある細胞を蛍光色素で可視化するCLARITY、睡眠の機能的意義に関する研究などがあげられます。これからも数年間の間は、iPS細胞関係の研究も含めてバイオサイエンスの研究は大きく発展していくと予想されます。分子を分子として扱うのではなく、細胞・組織・個体といった統合されたレベルでの分子の機能を測定することが必要となってきている現在、私たちの研究領域の重要性が増していると言えるでしょう。一方、私たちの実力が試されることになもなります。

 言うまでもなく、新しい研究・新しい技術を追いかけることだけが学術研究ではありません。しかし新しい技術により研究の進展が促進されることも事実です。生理学研究所は大学共同利用機関として、新しい研究成果・新しい技術を研究者コミュニティに利用しやすい形で提供していく責務があります。生理学研究所の規模ではすべてを実現することはできませんが、重要課題を決めて実現化に努力しています。昨年の重要課題は、ウィルスベクター室の設置と自動切削装置内蔵の走査型電子顕微鏡(3D-SEM)の設置でした。関係者の努力によりこれらの計画は順調に進んでおり、今後研究成果に結びつくと期待されます。今年の重要課題は超高磁場(7テスラ)の磁気共鳴画像装置(MRI)の設置です。7テスラMRIを用いての脳機能イメージングはまだ未開の研究領域であり、7テスラMRIが設置されている国内の研究拠点と連携を取りながら脳・生体の機能の可視化を進めて行く予定です。

 昨年より日本版NIH構想が話題になっており、来年度に向けて組織体制の構築と予算編成が行われています。アメリカのNIH(国立衛生研究所)は、基礎的学術研究も含めて幅広くバイオサイエンスの研究を行うとともに、研究費の配分機関としての役割も果たしています。一方、日本版NIHでは、主に研究成果の効率的な医療・産業応用が目的となっています。基礎研究と医療・産業応用とのギャップが小さくなることは大いに歓迎すべきことですが、それとともに基礎的学術研究を常に高いレベルに保ち、バイオサイエンスの発展の種を発見し苗を育て続けることも重要です。5年、10年を見越した研究を着実に進めることは、いつの時代にあっても不可欠です。

 最後に、生理学研究所で働き学ぶ皆様が、心身ともに健全であり、優れた研究成果を生み出していけることを願い、新年のあいさつとします。