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視覚探索における頭頂連合野の働き
刺激特徴と探索条件に依存的、非依存的な刺激選択過程を示すサル後頭頂葉ニューロン活動

研究報告 2009年2月20日

概要

複数の物体が存在する環境から目標となる物体を見つけ出す視覚探索では、視野内に存在する個々の物体の刺激特徴情報と、どのような物体を目標として探すのかを決める行動課題情報が重要となる。しかしながら、目標となる物体が特定され、その物体に視線方向を向けるためには、刺激特徴や行動課題の情報よりも目標物体の場所を特定する位置情報の方がより重要になると思われる。このように視覚探索の処理過程では、必要不可欠となる情報が処理の進行とともに質的に変化する。すなわち、 非空間性選択過程(nonspatial, feature-based target selection)から空間性選択過程(spatial-based target selection)へ移行すると考えられる。

先行研究による神経生理学的知見は、このような情報の質的変換が行われる脳部位として後頭頂葉におけるLIP野(the lateral intraparietal area)と7a野の重要性を示唆している。LIP野と7a野は視覚‐運動野であり、視覚選択、空間性注意、期待 、及びサッカード眼球運動の準備に関連したニューロン活動が報告されている。 一方、LIP野には色や形などの刺激特徴を表現するニューロン活動も報告され、視覚野としての特性も有していることが知られている。このように、LIP野と7a野は非空間性から空間性の選択過程への移行を実行するための脳部位として、最も適した処理段階に位置していると考えられる。

本研究では、このような変換過程における後頭頂葉の役割を明らかにするため、探索条件に応じて目標刺激が決まり、目標刺激の刺激特徴が多様に変化する視覚探索課題をサルに行わせ、LIP野と7a野から単一ニューロン活動を記録した。その結果、一部のニューロン群では、目標刺激が特定の刺激特徴をもち、かつ特定の探索条件で探索されているときのみ目標刺激の位置を反映した(variant type neuron)。一方、別のニューロン群は、そのような刺激特徴や探索条件に対する依存性は示さず、いつでも目標刺激の位置を反映するニューロン活動を示した(invariant type neuron)。これらの結果は、非空間性と空間性選択過程が後頭頂葉の同一領域に混在することを示し、非空間性から空間性選択過程への変換過程の場として後頭頂葉(LIP野、7a野)が重要な役割を果たしていることを示唆する。

論文情報

Ogawa T and Komatsu H
Condition-dependent and condition-independent target selection in the macaque posterior parietal cortex.
J Neurophysiology, 101:721-736, 2009.

【図1】 多次元視覚探索課題

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仮想円周上に6個の刺激要素から成る刺激アレイを呈示し、その中から目標となる刺激を探す視覚探索課題をサルに訓練する。各刺激アレイは、形も色も同一である4つの背景刺激(nonsingleton)、形次元で背景刺激と異なる1つの刺激(shape singleton)、及び色次元で背景刺激と異なる1つの刺激(color singleton)から構成される。各刺激要素は、2種類の形(縦棒、円形)と2種類の色(水色、黄色)から構成される。探索条件には2種類あり、形次元探索(shape search)のときは shape singleton が目標刺激となり、color singeton は妨害刺激となる (上段)。色次元探索(color search)のときは、それら2つの刺激の役割は入れ替わる(下段)。探索条件は注視期間中に呈示される注視点の色を変化させることにより教示される。

【図2】 目標刺激に対する応答が刺激特徴や探索条件に強く依存するニューロンの例 (variant type neuron)

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目標刺激に対する活動の増強が、特定の刺激特徴と探索条件が組合わさったとき特異的に生じた。形次元探索の条件下で、黄色&縦棒の刺激が受容野に目標刺激として呈示されたときのみ顕著な活動増強を示し(A、赤線)、妨害刺激や背景刺激に対する活動(青線、緑線)よりも大きくなった。一方、目標刺激の刺激特徴が水色&丸型に変化した場合(B、赤線)、探索条件が色次元探索に変化した場合(C、緑線)、及び刺激特徴と探索条件の両方が変化した場合(D、緑線)、目標刺激に対するニューロン活動の強度は著しく減衰し、妨害刺激や背景刺激に対するニューロン活動との差異が消失した。

【図3】 目標刺激に対する応答が刺激特徴や探索条件に依存しないニューロンの例 (invariant type neuron)

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刺激特徴と探索条件にかかわらず、目標刺激が受容野に呈示されたときニューロン活動の増強が生じた。色次元探索の条件下において、受容野に黄色&縦棒刺激が呈示されたときにニューロン活動は最大応答を示し(C、緑線)、妨害刺激や背景刺激に対するニューロン活動よりも大きくなった。目標刺激の刺激特徴が水色&丸型に変化した場合(D、緑線)、探索条件が形次元探索に変化した場合(A、赤線)、及び刺激特徴と探索条件の両方が変化した場合でも(B、赤線)、目標刺激に対して顕著なニューロン活動の増強を示し、その活動強度は最大応答の場合と差異がなかった。

A parietal neuron showing no dependence on stimulus features or the target-defining dimension. The activity of this neuron always exhibited significant discrimination of the target from the other stimuli, irrespective of the stimulus features and target-defining dimension. Conventions are the same as in Fig. 2.

【図4】 後頭頂葉ニューロンのポピュレーション応答

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