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下側頭皮質後部に新しい色関連領野を同定

研究報告 2009年11月19日

概要

大脳腹側の高次領野は色を知覚する上で極めて重要な役割を果たしていると考えられています。大脳皮質の腹側の領域が損傷されると色が知覚されなくなる大脳性色覚異常とよばれる症状が起きるからです。しかし大脳の腹側にどのような皮質領野が存在し、その部位のニューロンのどのような働きで色が知覚されているのかについてはまだよく分かっていません。私たちは大脳高次領野で色情報がどのように処理されているかを調べる研究を行っています。図1はサルの大脳皮質と色情報処理に関係する経路を示しています。下側頭皮質は大脳皮質の腹側に存在する高次領野で、損傷されると色の識別が障害されるのでヒトで色知覚に重要な役割を果たす腹側高次視覚領野と対応するものと考えられます。今回の研究で私たちは下側頭皮質後部(PIT)でニューロンの刺激選択特性を詳細にマッピングした結果、鋭い色選択性を持つ細胞が密集して存在し、視野の場所を表現する地図を持つ領域が存在することを発見しPITC(下側頭皮質後部色領域)と名づけました。この領域は色情報処理に深く関係しているものと考えられます。

図2Aは今回マッピングを行ったPITの場所を示しています。この場所は下側頭皮質の入口にあたる場所です。図2Bは脳の写真の上に我々が新しく発見したPITCの位置を示しています。PITCは後中側頭溝(PMTS)をまたがって存在し、上部のニューロンは中心視野に受容野を持ちますが、下部に移動すると受容野は周辺視野を含むようになり、更に後部では上視野、前部では下視野に受容野を持つという、全体として大ざっぱな視野の地図を持っていました。大脳視覚野にはいくつもの視野の地図が存在しますが、別々の視野地図は別々の機能に対応すると考えられています。従ってPITCも特定の機能に関係した一つの領野に対応するものと考えられます。この領域に鋭い色選択性を持つニューロンが多いことから、PITCは色情報処理に深く関係した領野であると推測される訳です。

図3にはPITCとその周辺で記録されたいくつかのニューロンの色選択性を示しています。左下に示したように、CIE-xy色度図で一定間隔に分布した同じ明るさ(輝度)の色刺激のセットを使って、ニューロンの反応を調べました。PITC内に示した4つのニューロンはいずれも鋭い色選択性を持っています。一方、PITCの外で記録された2つのニューロンは鋭い選択性を示しませんでした。

図4はPITCとその周りの領域のニューロンの性質をマッピングした結果を示します。図4Aは色選択性の鋭さを示しています。SとBはそれぞれ一定の定量的な基準を上回る鋭い色選択性を示した細胞と(S)と示さなかった細胞(B)を示しています。点線より下の領域にSのニューロンが密集して存在していました。図4Bは受容野が視野のどこに位置していたかを示しています。上の方には中心視野に受容野を持つ細胞(F)が多いのに対し、下の方ではより周辺視野を含む受容野を持ち、更に上視野に受容野を持つ細胞(○)が後に存在し、下視野に受容野を持つ細胞(●)が前の方に存在し、全体として大ざっぱな視野地図を持っていることが分かります。

今回の発見は、大脳高次領野における色情報処理の仕組みの一端を明らかにしたものです。この領域のニューロン活動が色知覚の成立とどのように関わっているのかを知ることは今後の課題です。

論文情報

Yasuda M, Banno T and Komatsu H
Color Selectivity of Neurons in the Posterior Inferior Temporal Cortex of the Macaque Monkey.
Cerebral Cortex, doi: 10.1093/cercor/bhp227, 2009

【図1】 

20091119_1.jpg

色の情報は目の網膜にある三種類の錐体細胞が違う波長の光に違う応答をすることに起源があります。錐体の応答の差を検出する網膜の細胞が色の情報を大脳一次視覚野(V1)に伝えます。大脳に入った色の情報は、V1からV2野、V4野を経て下側頭皮質に伝えられます。

【図2】 

20091119_2.jpg

Aは今回マッピングを行った下側頭皮質後部(PIT)の場所を示しています。PITは2本の破線で挟まれた領域です。赤の部分の脳の絵をBに示します。Bには今回発見したPITCの場所と視野地図を模式的に示します。図中の略号はAは前、Pは後、Dは上、Vは下を表します。IOS=下後頭溝、LS=月状溝、PMTS=後中側頭溝、STS=上側頭溝

【図3】 

20091119_3.jpg

※図をクリックすると拡大図が表示されます

PITCとその外で記録されたニューロンの色選択性の例を示しています。SとBはそれぞれ一定の定量的な基準を上回る鋭い色選択性を示した細胞と(S)と示さなかった細胞(B)です。赤線で囲まれた場所がPITCです。左下はCIE-xy色度図で、色付の円は実験で使った色刺激の色度座標を示しています。どの座標がどのような色に対応するかを分かりやすく示すために円に実際に近い色をつけています。実験の時には正確に色度と輝度をキャリブレーションした刺激を使います。6個のニューロンの色選択性は、十字で示した色度の色刺激に対するニューロンの応答を円の直径で示しています。Sで示したニューロンは青、紫、赤紫などに鋭い色選択性を持っています。実線は太いものから順に最大応答の80%、60%、40%、20%の場所を示す反応等高線です。

【図4】 

20091119_4.jpg

1頭のサルのPITでニューロンの色選択性と受容野をマッピングした結果を示します。内容については本文を参照してください。AとBいずれにおいても左上の点線より下の領域がPITCとして同定した領域です。中央やや下にある右下がりの実線はPMTSの位置を示しています。

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