文字サイズ :
HOME >  リリース一覧 >  ガラスのコップ?プラスチック? ~ 見ただけで瞬時にモノの素材を判別する脳の仕組みを解明~ ー「質感」認知の脳機能解明に第一歩 ー

各種リリース

Release

ガラスのコップ?プラスチック?
 ~ 見ただけで瞬時にモノの素材を判別する脳の仕組みを解明~
ー「質感」認知の脳機能解明に第一歩 ー

2011年5月25日 プレスリリース

内容

 

cop.jpg

私たちは普段から、目でモノを見るだけで、そのモノの形や場面がどういったものなのか、瞬時に判別して理解することができます。このとき、実際には、モノの形だけでなく、たとえば、それが固い金属なのか、石なのか、または、水のように流れるものなのか、そのモノの素材も判別することができます。瞬時に素材を判別することができるからこそ、モノを触ったり、つかんだり、すくったり、上手に行動することができるのです。しかし、これまでの研究ではモノの“形”を判別する脳の働きの解明は進んできたものの、このようなモノの素材の判別が、脳においてどのように行われているのか、ほとんど明らかにはなっていませんでした。今回、自然科学研究機構・生理学研究所の小松英彦 教授および郷田直一 助教の研究グループは、このモノの素材の判別における脳の働きを解明しました。米国脳機能イメージング専門誌「ニューロイメージ」(NeuroImage電子版5月4日)で発表されました。 

研究グループは、同じ形で素材の異なる9種類72個の物体のイメージをコンピューターグラフィックスで作成しました。実験は、男性2名、女性3名(21-33歳)の合計5名に対して行われました。まず、9種類(72個)の素材(金属、ガラス、セラミックス、石、木目、樹皮、皮革、布、毛)を被験者に見てもらい、脳の反応を脳機能イメージングである機能的磁気共鳴装置(fMRI)で記録しました。その結果、異なる素材に応じて、脳の視覚野(しかくや)といわれる部分や、側頭葉の腹側高次領野(ふくそくこうじりょうや)と呼ばれる場所の中で、神経の活動パターンが異なることが分かりました。さらに、固い・柔らかいなどの心理学的な印象による素材の区別と比較したところ、心理学的には、9種類の異なる質感の素材は大きく3つのカテゴリーに分類され、それとほとんど一致するように、腹側高次領野(ふくそくこうじりょうや)の神経の活動パターンが異なることが分かりました。一方、視覚野では、モノの陰影のパターンや模様、色、などのモノの見え方の特徴を良く判別していることがわかりました。この視覚野のモノの見え方の特徴に関する反応と、腹側高次領野の心理的印象に一致する反応が組み合わさることで、素材の識別を行っているものと考えられました。

小松教授と郷田助教は「今回の研究成果より、脳の反応パターンを見るだけで、その被験者が見ている素材がいったいどんなものなのか、当てることもできます。特に、腹側高次領野では、素材の視覚的な印象だけでなく、硬い・柔らかい、冷たい・暖かいなどの感覚的・触覚的な印象も反映する活動がみられることも初めてわかりました。視覚野と腹側高次視覚野のこうした感覚情報が統合されて、素材が何かを判別し、いわゆる“質感”を生みだしている元となると考えられます」と話しています。

本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

今回の発見

1.9種類72個の素材(コンピューターグラフィックス)に対する脳の反応を調べたところ、その素材の違いに応じて、脳の視覚野と側頭葉の腹側高次視覚野の反応が見られました。
2.視覚野では、素材の陰影パターンや模様、色など、その素材の見え方の特徴によく反応していました。
3.心理学的な実験と、fMRIによる脳機能イメージングによる結果を照合した結果、モノの素材の心理学的な判別と、腹側高次視覚野の神経の活動パターンがよく一致することがわかりました。腹側高次視覚野の神経活動は、様々な素材のもつ視覚だけでない多感覚的な印象を反映しているものと考えられました。

図1

9種類の異なる素材の例

sozai.jpg
コンピューターグラフィックスで作成した同じ形で素材の異なる9種類(72個)の素材のイメージ(金属、ガラス、セラミックス、石、木目、樹皮、皮革、布、毛)。これを被験者に見せて、fMRIによる脳機能イメージング(図2)と心理学的実験(図3)が行われた。

図2

モノの素材の違いによって反応を変える脳の部位

nousinkei.jpg

fMRIによる脳機能イメージングによって明らかになった素材を見せたときにその素材の違いによって反応を変える脳の部位(赤色)。この図では立体的な脳を平面的に表示している。この中でも大きくわけると、視覚野といわれる部分と、腹側高次視覚野に反応がみられることが分かる。

図3

視覚野と腹側高次視覚野の反応の違い

zu3bo-gurafu.jpg

 
視覚野でみられる神経の反応パターンと、腹側高次領野でみられる神経の反応パターンについて、それぞれ、素材の見え方の特徴(陰影パターンや、模様、色など)と、心理学的な印象との関連性を調べたところ、視覚野では見え方の特徴とよく一致した反応が、また、腹側高次領野では心理学的な印象とよく一致した反応が見られることがわかりました。

<心理学的実験>
9種類72個の素材に対して、ひとつひとつ以下の12項目について被験者の印象をたずねました(5段階評価)。

光沢なし ⇔ 光沢あり
不透明  ⇔ 透明
単調   ⇔ 複雑
不規則  ⇔ 規則的
地味  ⇔ 派手
粗い  ⇔ 滑らか
さらさら⇔ 湿った
冷たい ⇔ 暖かい
柔らかい⇔ 硬い
軽い  ⇔ 重い
弾力なし⇔ 弾力あり
ナチュラル ⇔ 人工的

図4

心理学的な分類と腹側高次視覚野の反応による素材の分類がほとんど一致

zu4hyou.jpg

9種の異なる質感をもつ素材について、心理的印象により分類した結果(左)と腹側高次領野の神経活動から求めた分類の結果(右)。9種類の素材は、どちらも同じ3つのグループに分けられた。心理学的な判別と、脳(側頭葉の腹側高次領野)の反応の差異による区別がよく一致している。

この研究の社会的意義

1)「質感」認知の理解・解明へ第一歩
本研究によって、人が見ただけで瞬時に素材を判別する脳の中のメカニズムを明らかにすることができました。今後、これまで明らかでなかったモノの「質感」認知を行う脳の機能解明が進むものと期待されます。
将来的には、こうした脳の優れた素材認識機能を模倣して、自動的・効率的な素材分類・同定システムへの応用、濡れているなどの表面状態に基づいて適応的に動作・行動するロボットシステムへの応用、その他、様々な分野(アート、エンターテイメント、工業デザイン、広告、デジタルアーカイブなどの)において、豊かな質感の生成・再現を実現するための技術の開発などへ繋がると期待されます。

図5

「質感」認知機能の解明へ第一歩

hayanon.jpg

論文情報

Transformation from image-based to perceptual representation of materials along the human ventral visual pathway
Chihiro Hiramatsu, Naokazu Goda, Hidehiko Komatsu
NeuroImage(ニューロイメージ) 2011年5月4日 電子版

お問い合わせ先

<研究について>
自然然科学研究機構 生理学研究所
教授 小松 英彦(コマツ ヒデヒコ)
助教 郷田 直一(ゴウダ ナオカズ)
Tel:0564-55-7861 / 7862  Fax:0564-55-7865 
E-mail:komatsu@nips.ac.jp, ngoda@nips.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL 0564-55-7722、FAX 0564-55-7721 
pub-adm@nips.ac.jp

 

 

関連部門

関連研究者

お問い合わせ

各種お問い合わせはメールフォームにてお受けします