計画共同研究
計画共同研究は、研究者の要請に基づいて生理学研究所が自らテーマを設定する。19年度までは、「遺伝子操作モデル動物の生理学的、神経科学的研究」と「バイオ分子センサーと生理機能」の二つが行われた。20年度からは、「多光子励起法を用いた細胞機能・形態の可視化解析」と「位相差低温電子顕微鏡の医学・生物学応用」が開始された。
計画共同研究は、研究者の要請に基づいて生理学研究所が自らテーマを設定する。今年度は、「遺伝子操作モデル動物の生理学的、神経科学的研究」と「バイオ分子センサーと生理機能」の二つが行われた。20年度からは、「多光子励起法を用いた細胞機能・形態の可視化解析」と「位相差低温電子顕微鏡の医学・生物学応用」が開始された。さらに21年度からは「マウス・ラットの行動様式解析」が開始された。いずれも現在最も高い関心を寄せられている領域であると同時に、生理学研究所が日本における研究の最先端をいっている分野でもある。多くの共同利用研究の申請を期待している。
◇ 20年度から開始された2つの計画共同研究の詳細は、次の通りである。
「多光子励起法を用いた細胞機能・形態の可視化解析」
2子励起顕微鏡システムは、低侵襲性で生体および組織深部の微細構造および機能を観察する装置であり、近年国内外で急速に導入が進んでいる。しかし、安定的な運用を行うためには高度技術が必要であるため、共同利用可能な機関は生理研が国内唯一である。現在、2台の正立(in vivo実験用)と2台の倒立(in vitro実験用)の2光子励起顕微鏡が安定的に稼動している。その性能は世界でトップクラスであり、レーザー光学系の独自の改良により、生体脳において約1mmの深部構造を1 µm以下の解像度で観察できる性能を構築している。深部観察技術に関しては、科学技術振興機構の産学協同プロジェクトにおいて光学顕微鏡メーカーと共同開発を行なった。また、生体内神経細胞のCa2+ 動態イメージング技術の確立および長時間連続イメージングのための生体固定器具の開発を行うとともに、同一個体・同一微細構造の長期間繰り返し観察技術の確立を行った。
「位相差低温電子顕微鏡の医学・生物学応用」
永山國昭教授により生理学研究所で開発された位相差電子顕微鏡は、特に低温手法と組み合わせることで威力を発揮する。無染色の生物試料について生状態の構造を1 nm分解能で観測可能である。過去数多くの部門内共同研究において、先端的な研究を拓いてきたが、その手法をさらに幅広い医学、生物学のフィールドで有効利用できるよう、計画共同研究をスタートすることとした。対象は、受容体やチャネルなどの膜蛋白質、各種ウィルス、バクテリア全載細胞、そしてヒトの培養細胞である。特に、生きた細胞中の分子過程の高分解能観察が生物機能につながる研究に期待したい。
◇ 21年度から開始された計画共同研究の詳細は、次の通りである。
「マウス・ラットの行動様式解析」
遺伝子改変動物を用いて、遺伝子と行動を直接関連づけられることが明らかとなってきた。このような研究においては多種類の行動実験を一定の方法に則って再現性よく行うことが要求される。このような実験を各施設で独立して行うことは極めて困難であり、無駄が多い。生理学研究所では動物の行動様式のシステマティックな解析を全国の共同利用研究に供するために、行動・代謝分子解析センターに行動様式解析室を立ち上げた。この施設に日本におけるマウス行動学の権威である宮川博士を客員教授として迎え、平成21年度から計画共同研究「マウス・ラットの行動様式解析」を開始した。平成21年度はまずマウスの解析から行う。◇ 22年度から開始される計画共同研究
「近赤外線トポグラフィーを用いた脳機能解析」
NIRS (Near infrared spectroscopy)は、近赤外線を使って脳の局所的な脳血流の変化をとらえ,脳の活動を画像化する装置である。長所としては、非侵襲的であるとともに、身体の活動中でも脳活動解析ができる。そのため乳幼児の脳活動の観察にも適用可能である。生理研では大人用と子供用のプローブを設置している。ヒトにおける自由行動時における脳活動の画像化を用いた共同研究のために供する。平成21年度採択表
(1)遺伝子操作モデル動物の生理学的、神経科学的研究
(2)バイオ分子センサーと生理機能
(3)位相差低温電子顕微鏡の医学・生物学応用
(4)多光子励起法を用いた細胞機能・形態の可視化解析
(5) マウス・ラットの行動様式解析
No. | 研究課題名 | 氏 名 | 課題名 |
---|---|---|---|
1 | ラットバゾプレシン産生ニューロンにおける酸感受性について | 上田 陽一 産業医科大・医 |
(2) |
2 | 白色脂肪細胞における容積センサーアニオンチャネルのインスリン抵抗性発症への関与の検討 | 城田 華 東京医科大 |
(2) |
3 | 細胞容積センサーとして働く分子群の同定及び機能解析 | 赤塚 結子 鈴鹿医療科学大・薬 |
(2) |
4 | TRPM7と容積感受性クロライドチャネルの機能的相互作用とその分子同定 | 森 泰生 京都大・大学院工学研究科 |
(2) |
5 | シナプス後膜におけるグルタミン酸受容体のトラフィック制御機構 | 柚﨑 通介 慶應義塾大・医 |
(2) |
6 | 中枢性摂食調節におけるPRIP-GABAシグナリングの役割解明研究 | 平田 雅人 九州大・大学院歯学研究院 |
(2) |
7 | 神経回路の発達・再編におけるバイオCl-モデュレータとしてのGABA/タウリンの役割 | 福田 敦夫 浜松医科大・医 |
(4) |
8 | 慢性疼痛による一次体性感覚野の活動変化とその機序の解明 | 野田 百美 九州大・大学院薬学研究院 |
(4) |
9 | 多光子顕微鏡を用いた嗅覚障害とその回復時における嗅球ニューロンのターンオーバーの可視化解析 | 澤本 和延 名古屋市立大・大学院医学研究科 |
(4) |
10 | 多光子励起顕微鏡を用いた骨リモデリングのインビボ光イメージング | 今村 健志 財団法人癌研究会・癌研究所 |
(4) |
11 | 視床下部の摂食調節にかかわる生体分子センサーについての機能形態学的研究 | 塩田 清二 昭和大・医 |
(2) |
12 | RCAN2遺伝子のノックアウトマウスを用いた機能解析 | 加納 安彦 名古屋大・環境医学研究所 |
(5) |
13 | グルタミン酸欠失変異型アミロイド前駆体蛋白遺伝子のノックインマウスを用いた機能解析 | 森 啓 大阪市立大・医 |
(5) |
14 | 神経内分泌細胞から同定された新規ペプチドの機能解析 | 中里 雅光 宮崎大・医 |
(5) |
15 | 新規神経ペプチドQRFP欠損マウスの行動解析 | 櫻井 武 金沢大・大学院医学系研究科 |
(5) |
16 | Cdk5活性化サブユニットp39ノックアウトマウスの行動様式解析 | 久永 眞市 首都大学東京・大学院理工学研究科 |
(5) |
17 | エピゲノム変異原性精神障害モデルマウスの行動解析 | 鹿川 哲史 熊本大・発生医学研究センター |
(5) |
18 | 統合失調症関連遺伝子、メタボトロピックグルタミン酸受容体遺伝子GRM3のノックアウトマウスを用いた機能解析 | 服巻 保幸 九州大・生体防御医学研究所 |
(5) |
19 | プロテインキナーゼPKN1遺伝子のキナーゼネガティブ変異ノックインマウスを用いた機能解析 | 向井 秀幸 神戸大・自然科学系先端融合研究環バイオシグナル研究センター |
(5) |
20 | 光顕・電顕相関観察法による細胞内核酸分子動態の解明 | 金子 康子 埼玉大・教育 |
(3) |
21 | ハイブリッド顕微鏡用環境制御セルの開発 | 箕田 弘喜 東京農工大・大学院共生科学技術研究院 |
(3) |
22 | 抗酸菌におけるZiehl-Neelsen染色の機序に関する位相差低温電子顕微鏡を用いた検討 | 山田 博之 財団法人結核予防会結核研究所・抗酸菌レファレンス部 |
(3) |
23 | 位相差低温電子顕微鏡によるインフルエンザウイルスの構造解析 | 山口 正視 千葉大・真菌医学研究センター |
(3) |
24 | カイコの休眠誘導に関わる温度センサーの解明 | 塩見 邦博 信州大・繊維 |
(2) |
25 | 消化管に発現する化学物質受容細胞の発現動態に関する研究 | 桑原 厚和 静岡県立大・環境科学研究所 |
(2) |
26 | 黒質網様部GABA作動性ニューロンの代謝依存的活動調節機構 | 山田 勝也 弘前大・大学院医学研究科 |
(2) |
27 | 膜翅目昆虫特異的な温度応答性HsTRPAチャネルの活性化メカニズムおよび生理機能の解析 | 門脇 辰彦 名古屋大・大学院生命農学研究科 |
(2) |
28 | 筋機械痛覚過敏におけるTRPチャネルとASICチャネルの役割 | 水村 和枝 名古屋大・環境医学研究所 |
(2) |
29 | CNR/プロトカドヘリン遺伝子ジーンターゲティングマウスの作製と機能解析 | 八木 健 大阪大・大学院生命機能研究科 |
(1) |
30 | 脳領域特異的なコンディショナルなメタスチンノックアウトマウスの作製とその解析 | 前多 敬一郎 名古屋大・大学院生命農学研究科 |
(1) |
31 | 臓器欠損モデルラットを用いた臓器再生 | 中内 啓光 東京大・医科学研究所 |
(1) |
32 | トランスジェニック動物作製への凍結乾燥精子の利用 | 保地 眞一 信州大・繊維学部 |
(1) |
33 | ラット精子幹細胞を用いた顕微授精 | 篠原 隆司 京都大・大学院医学研究科 |
(1) |
34 | 2光子FRET顕微鏡を用いた複数機能を同時可視化する手法の開発と細胞死の分子メカニズムの解明 | 永井 健治 北海道大・電子科学研究所 |
(4) |
35 | SNAP23膵臓外分泌細胞特異的欠損マウスを用いたSNAP23の外分泌における機能の解明 | 原田 彰宏 群馬大・生体調節研究所 |
(4) |
36 | 2光子顕微鏡によるPRIP分子を介した開口放出機構の分子基盤解明研究 | 兼松 隆 九州大・大学院歯学研究院 |
(4) |
37 | 2光子顕微鏡による免疫細胞動態制御の解析 | 木梨 達雄 関西医科大・附属生命医学研究所 |
(4) |